キヤノン超高感度カメラが製造業へ、独自SPADセンサーが応える新たな可視化ニーズ:製造マネジメント インタビュー(1/2 ページ)

防衛/インフラ用途だったキヤノンの超高感度カメラが、製造や研究現場へ領域を広げている。ノイズレスなSPADセンサーを搭載したキヤノンマーケティングジャパンの新製品「MS-510」は、微細な異物検知などの新たな可視化ニーズにどう応えるのか。

» 2026年11月05日 06時00分 公開
[安藤照乃,MONOist]

 港湾や国境、インフラ施設の遠方監視用途を中心に導入されてきた「超高感度カメラ」の活用領域が、製造業や研究開発の現場へと大きく広がっている。

 超高感度カメラに独自構造のSPAD(Single Photon Avalanche Diode)センサーを搭載し、新たな領域を開拓しているのがキヤノンだ。市場ニーズの変化と同製品が見据える新たな可視化の最前線について、キヤノンマーケティングジャパンのNVS(ネットワークビジュアルソリューション)企画本部に聞いた。

キヤノンマーケティングジャパン NVS企画本部の(左から)後藤友裕氏、渡邉竜弥氏、小柳隆平氏、立岩久健氏 キヤノンマーケティングジャパン NVS企画本部の(左から)後藤友裕氏、渡邉竜弥氏、小柳隆平氏、立岩久健氏

半導体の製造工程ではわずかな“ほこり”が命取りに

 低照度イメージング市場は現在、AIや画像解析といった用途の広がりも追い風となり、急成長を遂げている。SkyQuestの調査によれば、同市場は2025年の156.7億米ドル(約2兆4800億円)から2033年には288.5億米ドル(約4兆5500億円)へと拡大し、年平均成長率(CAGR)は7.92%に達すると予測されている。

 この成長市場において、超高感度カメラはこれまで、港湾や国境、インフラ施設など、昼夜を問わず高いセキュリティレベルが求められる監視用途で主に活用されてきた。しかし近年、その顧客層に新たな変化が生じているという。

夜間の視認困難な環境で約5km先を撮影した画像(使用レンズ:HJ40e×14B IASE-V H) 夜間の視認困難な環境で約5km先を撮影した画像(使用レンズ:HJ40e×14B IASE-V H) 出所:キヤノンマーケティングジャパン
キヤノンマーケティングジャパンの小柳隆平氏 キヤノンマーケティングジャパンの小柳隆平氏

 キヤノンマーケティングジャパン NVS企画本部の小柳隆平氏は、「直近になって、半導体業界をはじめとする製造業や大学の研究室からの引き合いが急増しており、全体の約7割をこの分野が占めるようになっている。製品の小型化や微細化が進む中で、従来は見えなかったものを『より細かく可視化したい』というニーズが高まっている」と説明する。

 例えば、半導体やプリント基板などの製造工程では、わずかなホコリやパーティクル(微粒子)が品質や歩留まりに直結する。これまではレーザーを用いた確認や一般的なカメラシステムで対応してきたが、微細化のさらなる進展により、見逃しや製品を傷つけるリスクが課題となっていた。こうした背景から、極めて高い感度とノイズ耐性を備えたカメラへの期待が、製造や研究の現場で急速に高まっているのだ。

超高感度カメラの問い合わせ企業傾向 超高感度カメラの問い合わせ企業傾向 出所:キヤノンマーケティングジャパン
製造業の顧客ニーズ 製造業の顧客ニーズ 出所:キヤノンマーケティングジャパン

読み出しノイズを原理的にゼロにする「SPADセンサー」の仕組み

 こうした微小な異物検知や研究分野における微弱光の観察といったニーズに応える技術として、現在注目を集めているのがSPADセンサーである。

 スマートフォンやデジタルカメラ、車載カメラなどに広く搭載されている一般的なCMOSセンサーは、画素に入射した光によって発生する電荷をアナログ情報として蓄積し、それをデジタルの電気信号(画像データ)に変換して読み出す仕組みを持つ。しかしこの構造上、画素ごとに内蔵された増幅器のばらつきによる固定パターンノイズや、低照度環境における読み出しノイズが発生しやすいという課題があった。

 一方、SPADセンサーは、画素に入ってきた光の粒子(光子=フォトン)を1つずつ数えるフォトンカウンティングという仕組みを採用している。入射した光子が電荷に変換される際、瞬時に約100万倍に増倍して信号として取り出すため、微量の光でも検出が可能となる。光の入射を直接デジタルなパルス信号として捉え、0か1かのデジタル値でカウントするため、原理的に読み出しノイズが発生しないのが最大の違いである。

CMOSセンサーとSPADセンサーの違い CMOSセンサーとSPADセンサーの違い 出所:キヤノンマーケティングジャパン
微弱光でも繊細な映像取得を実現 微弱光でも繊細な映像取得を実現 出所:キヤノンマーケティングジャパン
キヤノンマーケティングジャパンの後藤友裕氏 キヤノンマーケティングジャパンの後藤友裕氏

「読み出しノイズが全く発生しないことで、従来のCMOSセンサーではノイズに埋もれてしまっていたような微弱な光でも、正確に捉えることができる。暗い場所で無理に信号を増幅して画面全体がノイズに覆われてしまう従来の仕組みとは異なり、ノイズがない真っ暗な背景の中に、捉えたい対象物だけをはっきりと浮き上がらせるように検知することが可能になる」(キヤノンマーケティングジャパン NVS企画本部の後藤友裕氏)

 さらに同社は、このSPADセンサーに独自開発の「電荷収集型SPAD構造」を採用している。従来のSPAD構造は、画素内で光信号を検出できる感度領域が一部分にとどまり、光信号を検出できない不感領域が存在するため、感度が低下してしまう弱点があった。これに対し、同社の独自構造では画素全体を感度領域とする平面/断面構造を構築し、超高感度を実現している。

キヤノンのSPADセンサーの特長 キヤノンのSPADセンサーの特長 出所:キヤノンマーケティングジャパン
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