「良いモノ」を作るだけでは稼げない? 製造業がサービス化を迫られる理由:サービスで稼ぐ製造業への転換(1)(1/2 ページ)

製造業のサービス化が訴えられて久しいが、現実的にはうまく進められているところは少ない。本連載では、製造業がサービスで稼ぐビジネスモデルへの転換に不可欠な収益管理と成長戦略について紹介する。第1回は、製造業を取り巻く環境変化とサービス化の加速について全体像を示す。

» 2026年11月04日 07時00分 公開

 製造業の収益性が低下している。要因の1つとして、顧客が製品を選ぶ基準が製品利用時に得られる体験へと移行し、競争軸が製品の性能や品質だけではなくなっていることが挙げられる。この体験を軸とした価値提供へ移行するために重要度が高まっているのが、サービスを実現するソフトウェアだ。

 さらに、ソフトウェアをベースとして製品の付加価値を継続的に高めることで、購入時点よりも製品の価値を高められる。ビジネスモデルも、継続的に高まる価値を基に、課金型のビジネスモデルへと転換できる。

 こうした動きは以前から指摘されてきたが、多くの企業ではソフトウェアで提供するサービスごとの売上高や原価を十分に把握できていない。そのため、サービスビジネスにおける収益性の可視化ができておらず、必要な施策が打てない状況だ。企業がサービスで持続的に成長するためには、まずサービス別の売上高と原価を把握し、収益性を可視化した上で、さまざまな施策を展開することが不可欠である。その基盤の上で初めて、ソフトウェアによる価値向上、利用拡大、価格戦略といった収益拡大の施策を実行できる。

 本連載では、製造業がサービスで稼ぐビジネスモデルへの転換に不可欠な収益管理と成長戦略を、以下の5回に分けて取り上げていく。

連載の目次

  • 第1回 製造業を取り巻く環境変化とサービス化の加速:製品単体での販売の限界とサービス化の潮流を概観し、ソフトウェアとサービスが製品価値を左右する時代の到来を論じる。
  • 第2回 日本企業が直面する「サービス収益管理」の壁:サービス単位で売り上げや原価を把握できず、採算が見えない実態と、それが意思決定にもたらす課題を明らかにする。
  • 第3回 サービス収益管理の鍵となるソフトウェア資産:資産計上の対象となるソフトウェアとは具体的には何か? それらの管理における難しさおよび管理することがビジネスに与える効果を整理する。
  • 第4回 収益管理から収益拡大戦略へ:継続的なソフトウェア投資が売り上げを生む仕組みと、償却費を考慮した投資判断の重要性を論じる。
  • 第5回 サービスで稼ぐ製造業への変革:ソフトウェア資産の“管理”から、サービス収支による“経営”へと視座を引き上げ、経営基盤としてのサービス収支管理の位置付けを提示する。

製造業を取り巻くソフトウェアと収益環境の変化

 第1回では、製造業を取り巻く環境変化とサービス化の加速の全体像を紹介する。

 かつて日本の製造業は、製品そのものの性能と品質を磨き上げることで、世界市場において確固たる地位を築いてきた。より高性能に、より壊れにくく、こうした「製品(以下、モノ)の作り込み」が差別化の源泉であり、収益の柱であった。しかし、製造業の総資本営業利益率(本業での企業の資産活用効率を示す指数)の推移を見ると、かつて10%前後あった収益性が近年は5%前後にまで低下しており、こうした差別化が難しくなっていることがうかがえる(図1)。

photo 図1:製造業の総資本営業利益率の推移(各年10〜12月期)[クリックで拡大] 出所:筆者が作成

 技術の成熟とグローバルな競争の激化により、性能や品質の差は縮小し、多くのモノがコモディティ化しつつある。とりわけ、従来は機械設計や電気回路の工夫によって実現していた小型化や軽量化、高性能化についても、半導体の進化に伴い、半導体やそれに組み込まれるソフトウェアによって実現できるようになっている。かつて優位性のあった各社の先進的な機能は多くで横並びとなり、その優位性は失われつつある。優位性がソフトウェアに飲み込まれた製品については、モノ自体の高性能や高品質が、価格プレミアムや持続的な収益を約束しない時代となっている。

 これらが日本の製造業の収益性低下を招いている。ソフトウェアによりコモディティ化が進んだことで、“ある程度の品質のモノ”は簡単に作れるようになり、購入する側からすると“代わりがいくらでもある”という状況になり、市場からの値下げ圧力は加速した。さらに、グローバルで新たなプレーヤーも参入し、こうした動きが価格競争に拍車を掛けた。これらが日本の製造業が収益を確保するのを難しくしている。

 また、環境変化の背景には、顧客がモノに求める価値の本質的な移行がある。顧客が真に求めているのは、モノそのものではなく、モノを通じて得られる「体験」にある。半導体関連技術が飛躍的に発展した現在、クラウドを通じて多種多様なソフトウェアでさまざまな機能が実現できるようになった。ハードウェアと機能がひも付いていた時代とは異なり、ソフトウェアだけで求める機能や体験が得られるようになり、より体験をより重視する傾向が強まっている。

ソフトウェアとサービスビジネスの関係性

 こうした環境になると、ハードウェアの性能や品質は競争の前提条件、いわばスタートラインにすぎない。真に問われるのは、面倒な操作や設定を顧客に強いることなく、ソフトウェアがそれらを肩代わりし、顧客が「やりたいこと(体験)」をスムーズに実現できる仕組みである。そして、この体験を生み出し、高め続ける中心は、ソフトウェアによるサービスにほかならない。

 この潮流は、ビジネスモデルの構造そのものを変えつつある。従来の製造業は、モノを一度販売すれば取引が完了する「売り切り型」を前提としてきた。収益はモノを販売した瞬間に確定し、その後の顧客との関係は保守や修理にとどまりがちであった。しかし、ソフトウェアを起点としたサービスは、販売後も継続的なアップデートによって顧客体験を高め続け、月額課金や従量課金といった「課金型」へと軸足を移すことができる。

 サブスクリプション化や、あらゆるものをサービスとして提供するXaaS(X as a Service:インターネットを介して提供されるさまざまなサービス)化の潮流は、まさにこの構造転換の現れである。モノの価値が、ハードウェアの仕様ではなく、それにひも付くソフトウェアとサービスによって決定される時代が到来しているのだ。

 一方で、多くの企業では、ソフトウェアが提供するサービスごとの売り上げや原価を十分に把握できておらず、収益性の可視化が課題となっている。一般的にソフトウェアの開発費は、一定の要件を満たす場合に資産計上され、その後、償却費として費用化される。また、ソフトウェアは一般的に多くの製品間で共用することで費用対効果を最大化している。そのため、ソフトウェアの開発費がそのままサービスの原価とはならないことが、サービス別に正しい原価と利益を把握することを難しくしている。

 企業が、ソフトウェアが提供するサービスで持続的に成長するためには、まずサービス別の売上高と原価を把握し、収益性を可視化することが不可欠である。その基盤の上で初めて、ソフトウェアによる価値向上、利用拡大、価格戦略といった収益拡大の施策を実行できる。

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