手作業の計量によるヒューマンエラーに悩む製造現場をいかに変革するか。雪印メグミルクのDXサービス「Totonoworks」は、人の“判断”をシステム化することで、ミスによる損失100%減、作業時間約80%減を実現した。自社工場の課題解決から製造業全体の底上げへと挑む軌跡を追う。
雪印メグミルクは2026年9月2日、自社工場で培ったノウハウをもとにした製造業向けDX(デジタルトランスフォーメーション)サービス「Totonoworks(トトノワークス)」の販売を開始すると発表した。同サービスは、製造現場の複雑な作業手順と記録をデジタルで一体化し、作業の抜け漏れや判断ミスを防ぐ「現場起点の日報アプリ」と「導入伴走支援」を掛け合わせた新規事業だ。
システム開発の裏側にあったのは、ミスが許されない環境下で、現場の作業員たちが日々抱えていたギリギリの重圧である。いかにして現場の負の連鎖を断ち切り、誰もが安心して働ける環境を整えたのか。プロジェクトをけん引したキーパーソンへのインタビューを基に、製造現場発のDXの軌跡をたどる。
開発のきっかけとなったのは、雪印メグミルク 京都工場 池上製造所(京都府南丹市)(以下、池上製造所)だ。池上製造所では、牛乳やヨーグルトなどの製品を日々製造/出荷し、関西の消費地を支えている。しかし、2022年頃には指定とは異なる原材料を入れるミスや、計量を間違えるといったヒューマンエラーが発生していたという。
プロジェクトリーダーであり未来づくり部 Totonoworksグループ 専任部長(当時、池上製造所の所長)の柊拓志氏は、複雑な現場環境について次のように振り返る。
「食品製造現場の自動化が進んでいるとはいえ、原材料の調合や計量など、まだまだ手作業の工程が多く残っています。例えば当社の乳飲料である『雪印コーヒー』を作る際は、20品目前後のフレーバーや油脂、砂糖類などの原材料を使用する必要があります。日々の端数に合わせて計算し、それを1日に3回、合計60回以上も延々と人の手で計量し、タンクへ投入・調合を繰り返すような複雑な現場が存在するのです」
柊氏が語るように、現場に手作業が残らざるを得ない背景には、商品特性ゆえの厳しい生産条件がある。小売店からの発注は前日午後などに入るが、賞味期限の短い乳製品は当日出荷や翌日分の出荷を見据えた見込み生産を行わざるを得ない。見込みが外れればその都度、生産量の調整が必要となるからだ。
日々の製造量もある日は300kg、次の日は450kgと変動するため、一度の処理サイクル(バッチ)の量も端数を含めて毎日変化する。一定量の生産であれば機械化も容易だが、同工場ではその日の製造量に合わせて全ての原材料の分量を計算し直し、人の手で計量しなければならない。現場では簡潔な手順のみが記された紙のレシピを頼りに、原材料名、量、賞味期限、ロットなどを複数人でダブルチェックしていた。しかし、アナログな手法ではヒューマンエラーを完全に防ぐことはできず、ミスが起きるたびに注意喚起を行うという対症療法にとどまっていたのが実情だ。
このような状況下で、現場の作業者には心理的な負荷もかかっていた。「家に帰ってシャワーを浴びている時に、『あ、あのチェックをやったかな……』と気になって、慌てて風呂から飛び出して工場に電話をしたり、心配になって実際に確認しに行ったり……といったことも頻繁に起きていました」と柊氏は明かす。
ベテランの勘や記憶に依存し、現場でミスが発生すれば失敗すれば「ダブルチェックを徹底する」「注意喚起で意識向上を促す」といった人への負担増でカバーしようとするしかない。そんな悪循環の中で、現場の精神的ストレスは限界に達していたという。この危機感こそが、後の「Totonoworks」を生み出す原動力となった。
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