こうしたAIを産業用途に適用することの難しさについて、アッシュ氏は自身のエピソードを交えて説明した。同氏自身、日々の業務でClaudeをコーディングに、Geminiを科学分野の調査に、ChatGPTを一般的な事象に関する質問にと使い分けているという。これらのLLMはそれぞれ特定のタスクに優れているものの、そのままでは要求の厳しい産業用途には適さないと指摘する。
だからこそ、ダッソー・システムズでは、これら複数の汎用モデルを基盤として捉え、個別の課題に応じて最適なモデルを選定するアプローチを採っている。そして、そこに同社が長年培ってきた産業現場での経験や科学的モデリング、知的財産(IP)管理に関する知見を付加し、科学的根拠に基づいたAIへと発展させているという。
さらに重要なのは、この産業特化型AIの基盤上に、企業が持つ独自の実務手法や設計ルールを重ね合わせ、カスタマイズできる点だ。自社固有のノウハウをAIに組み込むことで、現場の実態に即した拡張性の高いAIを構築できる。
アッシュ氏は「こうした実用的な産業用AIは、プラットフォーム上でCATIAのCAD機能、SIMULIAのシミュレーション機能、そしてENOVIAのデータ管理機能などをシームレスに連携させることで、初めて実現可能になる」と強調し、同社の3DEXPERIENCEプラットフォームの優位性をアピールした。
同社が掲げる3D UNIV+RSESのビジョンの具現化に向けて、協業関係にあるのがNVIDIAだ。NVIDIAの創業者 兼 CEOのジェンスン・フアン氏は、チップを製造する前段階の2年間にわたる研究開発期間において、製品のライフサイクル全体を仮想空間上で包括的にシミュレーションするという思想を持っており、両社の目指す方向性は一致しているという。
アッシュ氏によると、NVIDIAにとって現在の課題の1つが、製品の実使用段階や「AIファクトリー」に関する領域だという。ダッソー・システムズは、こうした領域を補完する形で、AIファクトリーの設計やエンジニアリングチェーン全体への統合を支援する取り組みをNVIDIAと共同で進めている。
一方、SIMULIAブランドにおける協業テーマは大きく2つあるという。第1は、「CUDA」を活用したGPU上でのソルバーの高速化だ。第2は、「NVIDIA Omniverse」のライブラリの一部を3DEXPERIENCEプラットフォーム上に統合し、AIで強化されたMODSIM機能をユーザーに提供することである。
アッシュ氏は「MODSIMこそがAI機能の出発点である」と強調する。MODSIMは設計開発のスピードを向上させるだけでなく、AIの学習に不可欠な「合成データ(シンセティックデータ)」を生成する手段となるからだ。過去の実績データのみを学習させたAIでは、過去に設計した範囲にとどまる可能性がある。設計の探索領域を飛躍的に広げるためには、過去の実績データに加え、物理ソルバーに裏付けられたMODSIMによって大量の合成データを生成し、両者を組み合わせて活用することが重要となる。
また、MODSIMの導入によって、設計開発は従来の直線的(リニア)な段階的プロセスから、同時並行(コンカレント)で統合されたプロセスへと根本的に変化する。既にMODSIMを導入した顧客企業では大きな成果が出始めているという。
アッシュ氏は、長年ユーザーが信頼を寄せてきた物理ソルバーを土台に、その能力をMODSIMやエージェンティックAIへと発展させていく姿勢をあらためて示した。そして、AIの導入は組織内のサイロを打破し、人間とAIが協働する“ハイパーコラボレーション”を促すものだと位置付ける。
最後に同氏は、アルベルト・アインシュタインの言葉「いかなる問題も、それを作り出したのと同じ考え方によって解決することはできない」を引用。「より速く、より効率的に、イノベーションを起こすツールを手に入れた今、私たち全員に求められているのは、思考法そのものを変え、ワークフローを再構築していくことだ」と訴え、講演を締めくくった。
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