3D UNIV+RSESの具現化に向けたステップとして同社が推進しているのが、科学的根拠に基づくAI技術の本格的な実装だ。アッシュ氏は、この取り組みについて、「バーチャルツイン」「バーチャルコンパニオン」「ジェネレーティブエクスペリエンス」の3つの柱で構成されると説明した。
第1の柱は、AI適用の基盤となるバーチャルツインである。自動車や半導体、ロボティクスなどの重点分野に向けた機能提供が進められており、物理法則に基づくシミュレーションによって現実世界の挙動を再現する。こうしたバーチャルツインを相互に連携させることが、3D UNIV+RSESの実現に向けた出発点となる。
そして、第2の柱が「バーチャルコンパニオン」と呼ばれるエージェンティックAI(自律型AI)の活用だ。
「コンパニオン(仲間/同僚)」と呼ぶ理由は、人間の同僚と同じように対話しながら協働する世界観を想定しているためだという。将来的には、複数の人間の同僚と複数のバーチャルコンパニオンが同じミーティングに参加し、製品やソリューションを共創するワークフローを描いている。
現在、バーチャルコンパニオンは役割に応じて3つのタイプに分けられている。プロジェクト管理やサプライヤー分析などのビジネスプロセスを担う「AURA」、機械設計やシミュレーションといったエンジニアリングを支援する「LEO」、そして材料科学や創薬などの先端科学分野に特化した「MARIE」である。
このようにバーチャルコンパニオンを役割に応じて分けている理由について、アッシュ氏は、「産業用途として実用化する上で、汎用LLM(大規模言語モデル)特有のハルシネーションの発生を抑える必要があるためだ」と説明する。汎用モデルを産業現場にそのまま適用するにはリスクがあるという。ダッソー・システムズでは、長年蓄積してきたシミュレーション手法やエンジニアリングのノウハウ、物理学的知見を厳選してAIに組み込むことで、産業用途に耐え得る高精度なAI環境の実現を目指している。
そして第3の柱が、AIを活用して最適な設計そのものを生み出す「ジェネレーティブエクスペリエンス(生成型体験)」である。物理挙動を再現するバーチャルツインを活用し、シミュレーション結果から設計案を直接生成するジェネレーティブエンジニアリングを可能にするものだ。
アッシュ氏は、その一例として熱交換器の設計事例を紹介した。既存の熱交換器を基に、熱交換能力を高めるようAIに指示したところ、5〜6種類の異なる設計案が生成され、設計者がその中から選択できるようになったという。「現在は、生成された設計案について、製造コストはいくらか、製造は容易か、どのサプライヤーなら製造できるかといった製造可能性に関する情報と直接結び付けるための改善に取り組んでいる」(アッシュ氏)。
講演では、これらのAI機能が実務でどのように機能するかを示すデモンストレーション映像も公開された。エンジニアがバーチャルコンパニオンのLEOと対話しながら、航空機の着陸装置(ランディングギア)の欠落した部品を設計する様子を紹介したものだ。
デモは、ランディングギアの部品が欠落している状況から始まる。エンジニアはLEOに対し、手元のテーブルにある代替部品だけでなく、パーツストア(部品データベース)も検索し、空きスペースに最も適合し、かつ特定のトルク要件を満たす部品を見つけるよう依頼する。
まずLEOは、手元の部品を撮影した写真からパラメトリックモデルを生成した。「通常であればエンジニアが数時間は費やす作業を、LEOはわずか数秒で処理できる」(アッシュ氏)。LEOは実行した内容をエンジニアに順を追って説明し、この段階でエンジニアが手動で変更を加えることも可能だ。続いて、LEOがトルク要件を満たすかどうかを確認したが、残念ながらこの部品はテストで不合格となった。
そこでエンジニアは、「それではパーツストアを調べて、最も適合し、かつトルク要件を満たす利用可能な部品があるか見てくれないか」とLEOに再度指示を出す。LEOは適合性とトルクのテストを瞬時に行い、要件を満たす部品が「1つだけ存在する」と提示し、モデル内に組み込もうとした。
しかし、エンジニアは提示された既存部品に対し、「これは私が本当に望んでいるものではない。一から設計できるとしたら、どんな部品になるだろう?」と問い掛ける。すると、LEOはジェネレーティブ機能により、即座に新たな部品形状を自動生成して見せた。
そのあまりのスピードに、エンジニアが「ちょっと速すぎ。どのように設計したのか、順を追って説明してくれ」と求めると、LEOはその部品形状を生成する際の工学的な根拠を段階的に説明し始めた。
このように、エンジニアはAIが生成した設計案の根拠を確認した上で、その案を採用するか、あるいは修正を加えるかを判断できる。アッシュ氏は「エンジニアにAIのあらゆる能力を提供しつつ、対話しながら自由に変更を加える余地も残している。これこそが、業務において人間の能力を補強するための機能活用の一例だ」と強調した。
なお、アッシュ氏によると、このデモ映像の前半で紹介した機能は講演時点で既に利用可能だが、後半のジェネレーティブ機能については2026年末ごろの提供を予定しているという。
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