製造業における「ファジング」の重要性――ITと製品のセキュリティで何が違うのか武田一城の「製品セキュリティ」進化論(8)(2/2 ページ)

» 2026年09月03日 07時00分 公開
[武田一城MONOist]
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製品セキュリティでは「入力」の世界がまったく異なる

 製造業が扱う組み込み製品においては、Webアプリケーションとはまったく異なる世界が広がっている。製品に入ってくるデータは、HTTPやHTTPSだけではない。自動車であれば、カメラ、レーダー、LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)、GPS、速度センサー、加速度センサー、CAN、LIN、イーサネット、Bluetooth、Wi-Fi、USB、診断ポート、OTA(Over the Air)更新など数え上げれば切りがない。それほど、多数の入力経路が存在する。そして、自動車ほど顕著ではないにしても、産業機器や医療機器、家電、ロボットでも同様の事象が起きつつある。

 しかも、それらの入力は人間が画面に入力する文字列のような標準的な形式のものだけとは限らない。バイナリデータ、周期的な信号、タイミングに意味を持つ通信、センサーの測定値、ノイズを含むデータ、複数の機器から同時に届く情報など、極めて多様である。

 製品に組み込まれたソフトウェアは、Webアプリケーションのように、一つの画面やAPIを中心に入力を整理できる場合だけではない。製品は、現実世界から絶えずデータを受け取りながら動作しているのだ。ここで重要なのは、製品に入ってくる異常データは、必ずしも攻撃者によって送られるものだけに限らないという点である。

 現実の利用環境では、通信ノイズ、センサー誤差、電源の瞬断、部品の劣化、外部機器との相性、利用者の想定外の操作、境界値付近のデータなどが日常的に発生し得る。つまり、製品にとっての異常入力は、サイバー攻撃やその他の不具合であると共に、市場不具合や品質問題の原因にもなり得るのである。

守る対象は情報だけではない

 情報システム部門が主に扱うITセキュリティと、製造業が向き合う製品セキュリティの大きな違いは、「守る対象が情報だけではない」という点にある。ITセキュリティでは、情報漏えい、不正アクセス、マルウェア感染、ランサムウェアへの感染、DDoS(分散型サービス拒否)攻撃による業務停止などが主なリスクとして意識される。もちろん、これらは企業活動にとって重大な脅威であるが、製品セキュリティの守るべきものとは少々毛色が異なる。

 一方、製品セキュリティでは、誤作動、制御不能、停止、復帰不能、危険な動作、リコール、ブランド毀損(きそん)などの物理的かつ直接的なリスクになりやすい。製品セキュリティの観点では、守る対象は情報だけではなく、製品の安全、利用者の信頼、現場の稼働そのものを守る必要があるのだ。

 この違いを理解しなければ、ファジングの重要性は見えにくい。Webアプリケーションの延長で製品セキュリティを捉えると、「ファジングは昔少し流行したテストの手法」という印象となることも多く、その有効性に気付くことは難しい。

 しかし、センサーや通信機能を備えた製品にとって、入力データは製品の動作そのものを左右する。異常な入力にどう耐えるかは、単なるセキュリティ上の問題ではなく、製品品質と安全性に直結する問題である。



 今回は、ファジングが「データ入力に対する耐久試験」であること、そしてWebアプリケーションの世界ではファジングという手法が主役になりにくかった背景について述べた。それに対して、製造業が扱う組み込み製品では、入力経路がWebとは比べものにならないほど多様だという理由と共に異常入力の原因がサイバー攻撃だけでなく、製品の仕様による不具合や広義での品質問題にもつながることを説明した。

 製品セキュリティでは、守る対象は情報だけではない。製品の安全、利用者の信頼、現場の稼働、企業ブランドそのものを守る必要がある。そこで次回は、つながる製品が増やした「想定外データ」のリスクと、ファジングが品質、安全、セキュリティをつなぐテストとしてなぜ重要なのかについて解説する。(次回に続く)

著者プロフィール

武田一城(たけだ かずしろ) 株式会社ベリサーブ

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1974年千葉県生まれ。セキュリティ分野のマーケティングスペシャリスト。次世代ファイアウォールをはじめ、さまざまな新規事業の立ち上げに従事。セキュリティに限らず、IT全般の動向にも詳しく、インターネットや書籍の執筆実績が多数あり。NPO法人日本PostgreSQLユーザ会理事。日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)のワーキンググループや情報処理推進機構(IPA)の委員会活動、各種シンポジウムや研究会、勉強会での講演をはじめ製品セキュリティの啓発に向け精力的に活動している。


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