PLMの会計論:プロダクト損益と原価企画モノづくり革新のためのPLMと原価企画(8)(2/2 ページ)

» 2026年08月28日 06時00分 公開
前のページへ 1|2       

設備投資も「総額」で回収を捉える

 また、先行投資した固定費を回収するという視点に立つと、設備費の扱いも変わってくる。新製品のために設備投資をした場合にも、通常の原価計算であれば、法定耐用年数(10年など)で減価償却として費用化される。仮に1億円の設備を購入しても、毎年1000万円だけが費用計上されることになる。

 しかも、もっと厄介なのが、それを年間の設備稼働時間で割り、時間当たり単価に換算してしまうことだ。仮に年間2000時間なら、1時間当たり5000円となり、1分当たり約80円となる。

 1億円の設備を購入したにもかかわらず、年や時間などで細かく砕かれ、原形が分からない5000円や80円という金額感に変わってしまうのだ。そして、同様に他の設備の減価償却費と一緒に混ぜられることで、より一層分からなくなる。結果的に、固定費を自分で使っているというイメージが湧きにくくなってしまう。

 こうした設備費も、投資−回収の視点に立てば、至ってシンプルだ。1億円を投資したなら、1億円を回収できたかどうかだけである。年数で割ることも、時間で割ることも必要はない。税法上で決められた法定耐用年数にも左右されないのだ。

 実際には、いろいろな業務ケースに応じたルール決めが必要になるが、この総額管理が基本的な考え方となる

 派生の考え方として、共通設備を購入した場合は、どこかのプロダクトに全額を負担させるわけにはいかない。そのため、プロダクトごとに負担額を決める必要がある。負担額は、経営的な視点で意図を持って決めるしかない。

 財務会計では、このような意図を持って負担額を決めることは、恣意(しい)性があるとして嫌われる。しかし、逆にいうと、この意図(恣意)を持つことそのものが、事業戦略であり回収戦略といえる。これこそが、管理会計としてのマネジメントそのものではないだろうか。

量産後もプロダクト損益を追い続ける

 ここまでの話を踏まえて、原価企画とプロダクト損益の違いに戻ろう。原価企画は、量産後の初期流動解除のタイミングで終わってしまうが、固定費回収という視点では十分とはいえないことが理解できるはずだ。

 では、量産後どこまで管理すべきかは、製品特性によって異なる。理想はその製品の販売が終了するまでだが、20年、30年と販売し続ける製品の場合、販売終了まで管理を続けるのは現実的ではない。その場合は、量産後3年もしくは5年など、期間を定めて管理するのが妥当だろう。

 目的は、固定費を回収できたかどうかをフォローすることである。そのため、自社のビジネスモデルに合わせて、何年フォローするのが妥当かを判断してもらいたい。

 実際の運用としては、企画から初期流動解除までは原価企画を実施し、そこでいったんプロジェクトを解散する。ここまでは今までと同じでよい。そして、その後は管理主体を経営管理部や事業企画部などに移し、プロダクト損益の管理と固定費回収のフォローを実施するケースが多い。

 シンプルに見れば、単に原価企画を延長しているだけと捉えることもできる。ある企業では、「プロダクト損益」という新しい名称では混乱を招くとして、「延長原価企画」とシンプルに表現した例もあるくらいだ。

 プロダクト損益と原価企画の違いについて、もう少し補足しておきたい。製品の販売を複数年フォローすることに加え、サービスパーツの販売も損益管理の対象に含めるべきだと考える。

 近年は、保守/サービスでもうける時代に移り変わっている。逆にいえば、本体だけでは利益が出ない構造になってしまった。身近な商品でいうと、家庭用のインクジェットプリンタが最たる例だろう。

 廉価版の機種は1万円を切る。しかし、その標準インクカートリッジは2000円から2500円くらいする。インクカートリッジを4〜5回購入すると、本体代を超えてしまうのだ。本体が安過ぎるのか、インクカートリッジが高過ぎるのか分からないが、どう考えてもバランスは変である。

 収益構造が本体から保守/サービス品に変わってきているのだ。そうであれば、サービスパーツも含めて固定費回収の管理対象にすべきである。この部分については、サービスBOM(S-BOM)との関連が重要となる。S-BOMとの関連については、別途解説したい。

プロダクト損益と原価企画 図2 プロダクト損益と原価企画[クリックで拡大]

 繰り返しになるが、原価企画は開発のプロジェクト管理を主眼に置いた活動である。1個当たりの目標原価を設定し、原価の作り込みを中心にマネジメントすることになる。

 その原価企画を包含し、開発に投じた費用(固定費)の回収管理まで行っていくマネジメントが求められている。経営管理を高度化するためにも、プロダクト損益はその有効な手段の1つとなり得ると考える。

本連載の目次はこちら
記事のご感想はこちらから

筆者プロフィール

株式会社プリベクト
北山一真(きたやまかずま)

IT系コンサルティング会社、製造業系コンサルティング会社ディレクターを経て、プリベクトを設立。競争力ある製品/もうかる製品の実現のため、設計と原価の融合をコンセプトにした企業変革に取り組む。業務改革の企画/実行、IT導入まで一気通貫で企業変革の実現を支援。プロフィタブルデザイン、設計高度化、設計ナレッジマネジメント、製品開発マネジメント、原価企画、原価見積、開発購買、ライフサイクルコスティング、意思決定管理会計、BOM、PDM、PLMなどのコンサルティングを手掛ける。

著書に「儲かるモノづくりのためのPLMと原価企画<実践編>」(東洋経済新報社)、「儲かるモノづくりのためのPLMと原価企画」(東洋経済新報社)、「赤字製品をやめたら、もっと赤字が増えた!-儲かる製品を実現するコストマネジメント-」(日刊工業新聞社)、「プロフィタブル・デザインiPhoneがもうかる本当の理由」(日経BP社)ほか多数執筆。

◇企業情報:株式会社プリベクト


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

特別協賛PR
スポンサーからのお知らせPR
Pickup ContentsPR
Special SitePR
あなたにおすすめの記事PR