「第26回 海上技術安全研究所研究発表会」から、自動離着桟の安全性評価、AISでは捉えられない船舶交通の推定、LPWAによる船船間通信という3つの研究を取り上げ、自動運航船の安全な運用に必要な技術と、各研究で得られた成果、今後の課題を解説する。
海上技術安全研究所(海技研)は2026年7月24日、東京都内とオンラインのハイブリッドで「第26回 海上技術安全研究所研究発表会」を開催した。海技研は、日頃の研究成果を広く紹介するため、毎年7月ごろに研究発表会を開催している。今回は12件の口頭発表、20件のポスター発表、公開実験で構成され、海事産業の技術者や研究者をはじめとする関係者が、海技研の研究内容とその進展を知る機会となった。
第26回は「海技研の研究開発と社会実装の進展」をテーマに掲げ、研究成果に加え、その実証や実用化に向けた取り組みも紹介した。扱われた分野は、船舶の構造/運航安全、脱炭素や油回収などの海洋環境技術、海底鉱物資源/洋上風力発電を含む海洋開発、3次元船舶設計、海運/造船市場分析など多岐にわたる。過去の発表会で取り上げられた研究の中には、実運航性能シミュレーター「VESTA」や、船舶の実海域性能を高精度に解析/推定/評価するプログラムをAPI化した「OCTARVIA」のように、その後も機能拡張や外部システムとの連携が進み、実務利用を想定したプログラムとして提供されているものもある。
本記事では、第26回の発表会の中から、自動離着桟の安全性評価、AIS(船舶自動識別装置)では捉えられない船舶交通の推定、LPWA(低消費電力広域ネットワーク)による船船間通信という3つの研究を取り上げ、自動運航船の安全な運用に必要な技術と、各研究で得られた成果、今後の課題を解説する。
自動離着桟は、自動運航船を構成する要素技術の中でも難度が高い。着桟では船速を落としながら目標位置に目標方位で停止させる必要があるが、低速になるほどプロペラ推力がゼロ付近となり、舵効きも低下する。風や潮流などの外乱に対する余裕も小さくなるため、実船試験に進む前に、操縦運動シミュレーションを用いて制御アルゴリズムの動作と安全性を検証することが重要になる。
講演では、日本海事協会が離着桟時の操縦運動シミュレーションモデルに求める要件として、操縦運動計算の妥当性、アクチュエーターの応答遅れの考慮、風や潮流などの外乱を入力できること、計算負荷が過大でないことが紹介された。一方、巡航速力域ではMMG(操縦モデリンググループ)標準モデルが広く使われるのに対し、離着桟時の低速/大斜航角運動には標準モデルと呼べるものがまだない。
海技研はこの課題に対し、MMG標準モデルと同様に、船体、プロペラ、舵、サイドスラスターが生む力とモーメントを個別に扱うモジュラー型モデルを前提に、模型試験データを拡充している。巡航状態を対象とする従来の模型試験では、斜航角でおおむね±30度までが主な計測範囲だったが、離着桟では横移動や後進も含むため、180度までの広い範囲で船体や舵に働く流体力を把握する必要がある。コンテナ船模型などを用いた試験では、低速域において、船体に対する水流の向きを示す斜航角と、船長/船速で規格化した回頭角速度を変え、船体単独と船体/舵の流体力を計測した。
縮尺95分の1のコンテナ船模型を用い、斜航角と無次元回頭角速度を変えて計測した流体力。左から前後力、横力、回頭モーメントを示し、船体単独と船体/舵を組み合わせた条件を比較する。離着桟で生じる横移動や後進を含め、斜航角180度まで調べた[クリックで拡大] 出所:海技研また、着桟直前にプロペラを遊転させた状態でも、船に前進速度が残っていれば舵が一定程度効くことを模型試験で確認した。遊転時の舵への流入速度は、プロペラ模型を外してボスだけを置いた条件とほぼ同じだったという。ただし、北川氏は質疑で、遊転時に残る舵効きは「少し効く」程度であり、船速がさらに低下すれば舵効きも小さくなるため、必要に応じてプロペラを回して舵への流れを確保する必要があると説明した。
自動着桟を模擬した操船例。左は着桟目標地点までの航跡、中央と右は船速、斜航角、回頭角速度、船首方位、プロペラ回転数、舵角の時間変化を示す。プロペラを正転から遊転、逆転へ切り替えたが、残速があり目標地点を通過した[クリックで拡大] 出所:海技研
横軸はフルード数、縦軸は船速に対する舵位置での流速低下を示す舵有効伴流係数。値が大きいほど舵への流入速度は小さい。遊転に近い低回転条件の値はダミーボス条件に近く、講演では、実船で計測した流速から遊転時の係数を推定できる可能性が示された[クリックで拡大] 出所:海技研海技研は、日本船舶海洋工学会のP-69研究委員会と連携し、離着桟時の操縦運動を予測する数学モデルの検討を進めている。同委員会には、大学、造船所、舶用機器メーカー、海運会社、船級協会などが参加する。今回の発表会では、連携研究の一例として、海技研や委員から提供された4船型の模型試験結果をベンチマークデータに用い、6種類の船体流体力モデルによる計算値と計測値を比較した事例が紹介された。
比較では、回頭モーメントについて高品位モデルが総合的に良好な結果を示した一方、横力の再現や真横移動の条件では、別のモデルが良好な例もあった。北川氏は、モデルの再現精度を評価する際には、対象とする流体力や操船状態を考慮する必要があると説明した。
以上のように、海技研では、P-69研究委員会との連携を含め、離着桟時の操縦運動を予測する数学モデルの検討を進めているが、その目標は、安全性評価に使用できるモデルの選定方法を整理するとともに、船ごとに模型試験を実施しなくても、実用上必要な精度でモデル係数を推定できる手法を確立することにある。そのため、海技研では研究の目標として、安全性評価に用いるモデルを操船条件に応じて選定/推奨できるようにすることと、船ごとに模型試験を行わなくても実用上必要な精度でモデル係数を推定できる手法を確立することを挙げた。また、今後検討すべき対象として、バラスト状態、2軸船/2舵船、新形式船、サイドスラスター作動時を示した。
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