「自動運航」と「協調操船」の最新要素技術――第26回海技研研究発表会より船も「CASE」(2/3 ページ)

» 2026年08月27日 06時00分 公開
[長浜和也MONOist]

AISで見えない船舶交通を事故データから逆算する

海上技術安全研究所 海洋リスク評価系 副系長の伊藤博子氏 海上技術安全研究所 海洋リスク評価系 副系長の伊藤博子氏。海難事故データとAIS航跡を組み合わせ、AIS非搭載船の平均航行隻数を推定する手法と、その検証結果について解説した

 自動運航船や高度航海支援システムの安全性を評価するには、対象海域でどのような他船と、どの程度の頻度で遭遇するのかを把握する必要がある。AISの航跡を使えば、搭載船については長期間/広範囲の交通状況を分析できる。一方、漁船やプレジャー船にはAIS非搭載船が多く、AIS航跡だけでは実際の交通環境を再現できない。

 海技研は、海難事故データとAIS航跡を「衝突頻度モデル」で組み合わせ、AIS非搭載船の平均航行隻数の概数を逆推定する手法を構築した。この手法では、まず計算区画ごとに船種別の衝突頻度を求め、AIS航跡の延べ航行時間からAIS搭載船の平均航行隻数を算出する。次に、商船同士の衝突事故から、交通量に対する事故の起こりやすさを表すモデル定数を推定する。最後に、その定数と商船対漁船、商船対プレジャー船の事故件数を用い、AIS非搭載船の平均航行隻数を逆算する。

区画別/船種別の衝突頻度とAIS搭載船の平均航行隻数を求め、商船同士の事故からモデル定数を算出する 区画別/船種別の衝突頻度とAIS搭載船の平均航行隻数を求め、商船同士の事故からモデル定数を算出する。その定数と商船対漁船/プレジャー船の事故件数を式に入力し、AISでは観測できない船の平均航行隻数を逆推定する[クリックで拡大] 出所:海技研

 対象海域は本州南岸の沿岸20海里までで、おおむね10海里を境に陸側のS1と沖側のS2に分けた。事故データには、旧海難審判庁の裁決録から抽出した1991〜2008年の461件と、運輸安全委員会報告書に基づく2009〜2018年の111件を使用した。今回の推定では船種区分を単純化し、AIS搭載船を商船、AIS非搭載船を漁船とプレジャー船として扱った。

AIS航跡の延べ航行時間を観測時間で割り、計算区画ごとのAIS搭載船の平均航行隻数を算出する AIS航跡の延べ航行時間を観測時間で割り、計算区画ごとのAIS搭載船の平均航行隻数を算出する。さらに商船同士の事故件数と交通量から、衝突の起こりやすさを表すモデル定数を推定し、AIS非搭載船の逆推定に用いる[クリックで拡大] 出所:海技研

 当初、2つの事故データから得た推定値には、漁船で約2.4倍、プレジャー船で約8.8倍の差が生じた。そこで海域の除外条件を統一し、2018年から曜日、休日、荒天などを考慮して24日分を抽出した代表交通量を設定。さらに入港船舶数の長期的な変化を踏まえ、古い事故データの対象期間には交通量を1.4倍とする年代因子も導入した。

 共通条件で再計算すると、全域の漁船は約110〜130隻となり、2データ間の差は約1.2倍まで縮小した。プレジャー船は約4〜18隻で、約4.8倍という差は残ったものの、2種類の事故データから得た推定値は同じ桁に収まった。事故件数が少ないプレジャー船では、少数の事故が推定結果を大きく変動させることが一因と考えられると発表会では説明されている。

海域区分、代表交通量、年代因子を統一して、異なる2種類の事故データから平均航行隻数を再推定した 海域区分、代表交通量、年代因子を統一して、異なる2種類の事故データから平均航行隻数を再推定した。漁船は全域で約110〜130隻となり、両データの差は約1.2倍に縮小。プレジャー船は約4〜18隻で、約4.8倍の差が残った[クリックで拡大] 出所:海技研

 この手法は個々の船の位置を復元するものではないが、AISだけでは見えない交通量の規模を推定し、自動運航船の監視範囲、遭遇シナリオ、行動決定アルゴリズムの安全性評価に用いる基礎資料を提供できるとしている。今後は、事故データ体系の違い、年代によるモデル定数の変化、船種分類の単純化、事故件数の少ない区画における不確実性を検討し、推定幅の提示や他海域/他データによる妥当性確認を進める予定だという。

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