物流を経営の武器にする、「稼ぐサプライチェーン」を実現する3つの仕組み「稼ぐサプライチェーン」の作り方(3)(1/3 ページ)

連載の最終回となる第3回では、「稼ぐサプライチェーン」の全体設計を解説する。顧客への約束を起点とした「物流サービスの設計」、先回りでリスクを判断する「S&OP」、全体最適を回す「KPI」の3軸を連動させ、売り上げ/利益/顧客体験/キャッシュの最適なバランスを導き出す、経営機能としての仕組みを提示する。

» 2026年08月07日 07時00分 公開

はじめに:物流を「経営の設計図」に組み込めているか

 第1回では、在庫を「形を変えたキャッシュ」として捉えるB/S視点を整理しました。第2回では、在庫をやみくもに削るのではなく、目的別に分類し、「持つ理由を説明できる在庫」に変えていく考え方を見てきました。在庫を厚く持てば欠品は減りますが、キャッシュは在庫に固定されます。物流サービスを高めれば顧客満足は上がりますが、物流コストも増えます。このように、サプライチェーンの意思決定には、常にトレードオフがあります。

 最終回となる本稿では、「稼ぐサプライチェーン」の全体設計を考えます。ここでいう「稼ぐ」とは、売り上げ/利益/在庫/キャッシュを個別に最適化するのではなく、自社にとって最も合理的なバランスを見つけることです。そのために日々の需給調整や物流コスト管理をどのように変えるべきかを整理します。

 そのための軸は、次の3つです。「顧客への物流サービスを設計する」「S&OPで需給の判断を先回りする」「KPIで全体最適の改善を回す」。重要なのはトレードオフを見える化し、自社は何を優先するのかを決めることです。

物流サービスレベルは、顧客への約束を起点に設計する

 ここまで本連載では、主に在庫マネジメントを中心に見てきました。在庫はB/S上に残りますが、配送費や保管費、梱包(こんぽう)費、荷役費などの物流コストは、その期の利益を直接押し下げます。そのため、多くの企業では「削減すべきコスト」として管理されています。

 しかし、物流コストを一律に削減対象としてしまうと、本来は売り上げや顧客体験、継続購入に貢献している費用まで削ってしまう可能性があります。在庫と同様に、物流コストも「なぜ必要なのか」を説明できる状態にしておくことが重要です。

(1)物流サービスレベルは、事業戦略から決まる

 物流サービスレベルとは、「どの商品を、どの顧客へ、どの品質や納期で届けるか」を決めることです。

 例えばB2Bでは、標準品をどこまで在庫して即納するのか、短納期体制を競争力にするのか、受注ロットをどう設定するのか、保守部品を何年間、どの水準で保有するのか、といった内容がサービスレベルになります。

 一方D2C(中間業者を挟まずダイレクトでメーカーやブランドから消費者に提供するモデル)では、限定商品は売り切りを前提とするのか、翌日配送にするのか、送料無料条件をどう設定するのか、ギフト包装に対応するのか、販促品を同梱するのか、などがサービスレベルになります。

 B2B、B2Cを問わず重要なのは、「顧客へ何を約束するか」を先に決めることです。その約束を実現するために、在庫水準、倉庫配置、配送方法、梱包仕様などを設計していきます。

(2)物流コストの中には、「投資」として評価すべきものがある

 物流コストの中には、B2Cでは販促費、B2Bでは顧客維持費に近い役割を果たすものがあります。本稿では、物流コストを目的別に評価するため、これらを管理上「投資コスト」と捉えます。物流コストが難しいのは、会計上の見え方と、経営上の役割が必ずしも一致しないことです。

 特にD2Cでは、物流は単なる出荷作業ではありません。ECでは、商品を注文し、荷物を受け取り、箱を開けるまでの一連の体験も、ブランド価値を形づくる重要な顧客接点です。

 店舗では接客やVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)、内装がブランド体験をつくります。D2Cでは、商品が届き、箱を開ける瞬間がそれに近い役割を果たします。例えば、香りを強みとするブランドでは、商品とともに香りを付けたカードを同梱し、箱を開けた瞬間にブランドの世界観を感じてもらうといった工夫も行われています。

 D2Cにおける物流倉庫は、単なる出荷拠点ではなく、顧客体験を最後に仕上げる場所でもあります。そして、こうした施策を企画するのがマーケティング部門やEC部門であっても、実際の梱包/出荷を担うのは物流部門や物流委託先です。その実行にかかる費用の多くは、物流費や梱包費、業務委託費などとして計上されます。

 それはB2Bでも同じであり、緊急出荷への対応や保守部品の即納、得意先ごとの梱包仕様などは取引先との関係維持や受注拡大につながる物流サービスです。つまり、同じ「物流コスト」でも、通常配送のような基礎コストと、売り上げや取引維持を目的としたサービス投資では、評価方法を分ける必要があります。しかし、会計上は荷造運賃、支払手数料、業務委託費などに分散して計上されるため、その効果が見えにくくなります。

 広告費であればCPAやROASで投資対効果を評価しますが、物流コストは「売り上げに対して何%か」「前年より増えたか減ったか」だけで評価されることが少なくありません。その結果、本来は売り上げや顧客ロイヤリティーへ貢献している施策まで、単なるコスト増として扱われてしまいます。だからこそ、物流コストは勘定科目だけではなく、「何のための費用か」で見る必要があります。

(3)物流コストは、「目的」で管理する

 実務では、物流コストを目的別に分類すると管理しやすくなります。例えば、投資コストを不要コストと同じように削減すれば、売り上げや顧客体験を損なう可能性があります。物流コストを目的別に分類し、それぞれ異なる指標で管理することで、削るべき費用、効率化して維持すべき費用、効果を検証しながら投資すべき費用が明確になります。特に投資コストについては、物流部門だけで評価するのではなく、営業やマーケティング、事業部門と連携し、購入率/受注率、客単価、リピート率、継続受注率などへの効果を確認することが重要です。

物流コストは「目的」で分類し、それぞれ異なる考え方で管理する 物流コストは「目的」で分類し、それぞれ異なる考え方で管理する[クリックで拡大] 出所:ウィズプロ

 物流サービスレベルを設計するとは、物流コストを増やすことでも削ることでもありません。「顧客へ何を約束するか」を起点に、必要な在庫水準、倉庫配置、配送網、作業方法を組み立てることです。そのうえで物流コストを目的別に管理すれば、削るべき費用と投資すべき費用を区別できます。物流/SCM部門は、単なるコスト管理ではなく、利益創出を支える役割を担うようになります。

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