ここまで、物流サービスレベルとは「顧客へ何を約束するか」を決めることだと述べました。しかし、約束を決めるだけでは実現できません。必要な販売計画、調達・生産能力、在庫水準、物流能力、資金計画を部門横断で整合させる必要があります。
そのための仕組みがS&OP(需給調整)プロセスです。第2回でも触れたように、S&OPプロセスは販売計画と生産計画を数量で合わせるだけではありません。売り上げ/利益/在庫/キャッシュへの影響を踏まえ、会社としてどのリスクを許容するかを判断する需給統合プロセスです。そしてその中核となるのが、営業、マーケティング、生産、SCM、財務などの関係部門が集まり意思決定を行う「S&OP会議」です。
では、このプロセスを実務ではどのように運用すればよいのでしょうか。例えば、翌月の販売計画が前年同月比120%で組まれていたとします。このとき確認すべきことは、「その数量を供給できるか」だけではありません。
このような論点を事前に確認することで、S&OP会議は「結果を確認する場」ではなく、「変化が起きる前に対応を決める場」へと変わります。
(1)まずは、数字になる前の情報を集める
S&OPプロセスの初期段階では、各部門が持つ定性情報を集約します。需要や供給の変化は、最初から数字として現れるとは限りません。むしろ、「まだ確定していないが、気になる情報」として現場に現れることの方が多いものです。
こうした情報は、確度が低いうちは正式な販売計画や生産計画には反映しづらく、担当者だけが把握している情報になりがちです。しかし共有されないままでは、欠品や過剰在庫、特急輸送などの形で後から問題として表面化します。
重要なのは、情報の確度を分けて扱うことです。全てを標準シナリオへ織り込むと計画が不安定になります。一方で、確定情報だけを扱っていては対応が遅れます。そのため、情報を「確定」「高確度」「可能性あり」などに区分します。確定情報は標準シナリオへ反映し、未確定でも影響の大きい情報は、上振れ/下振れシナリオの前提として管理します。
(2)需要予測は、「外れたとき」の準備までしておく
定性情報を踏まえて標準シナリオを作成したら、次に重要になるのが複数シナリオの検討です。需要予測を完全に当てることはできません。だからこそ重要なのは、「予測を当てること」ではなく、「予測が外れたときにどう動くか」を決めておくことです。S&OPプロセスでは、例えば次の順序でシナリオを検討します。
(3)最後に、「誰が・いつ・何を決めるか」を明確にする
複数シナリオと定性情報を扱うようになると、最後に重要になるのが、「誰が、いつ、何を決めるのか」を明確にすることです。現場でよく起こるのは、会議で課題は共有されたものの、追加生産をするのか、発注を止めるのか、納期を調整するのか、といった判断が曖昧なまま持ち越されるケースです。
特に将来を見据えた判断では、「もう少し情報が集まってから決めよう」と先送りしたくなるものです。しかし、その結果、会議では何も決まらず、対応が後手に回ることは少なくありません。そのため、S&OP会議では少なくとも次の3点を毎回確認し、できれば議事録として残すことをお勧めします。
このように、S&OPは単なる需給調整ではありません。不確実性を早期に捉え、会社としてどのリスクを受け入れ、どのように対応するかを決めるための仕組みです。
各部門が持つ定性情報を共有し、複数シナリオで影響を確認し、事前に判断基準を持つ。そうすることで、欠品が見えてから特急生産や緊急調達、特別輸送で対応したり、在庫が積み上がってから値引きや廃棄を検討したりするような、後手の対応を減らすことができます。
結果として、売り上げ機会を守りながら、余分な物流コストや在庫負担を抑え、利益とキャッシュを両立しやすくなります。これが、「稼ぐサプライチェーン」におけるS&OPプロセスの役割です。
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