本連載は、トヨタ自動車で16年間、生産技術/現場改善に携わった筆者が、食品工場で感じる「自動車工場では当たり前なのに、食品工場にはないこと」を軸に、現場の生産性などに悩む食品製造業の経営者に向けて“問い”を投げかけ、改善のヒントを探ります。最終回となる今回は、食品工場を訪れた筆者が抱いた違和感と、それに対する提案を紹介します。
過去2回の連載では異常があったら止めるという発想や、今日いくらもうかったかが分かるタクトタイムについて考えた。第3回となる今回は、私が食品工場を訪れて抱く違和感と、それに対する提案を紹介してまとめとしたい。
私は独立して3年、関わった食品工場も10社程度なので食品全体を語るつもりはない。しかし、自動車エンジニアの違和感として、3回目の今回は設備の「なぜ」を書いてみたい。
ところで、皆さんは何のために工場へ設備を入れているだろうか、少し手を止めて考えていただきたい。省人=人を減らすため、品質を安定させるため、スピードアップさせて生産数を増やすため……。
いずれも私は違うと思っていて、目的はもうけるためであってほしいと思う。売り上げではなく、利益。当たり前ではあるが、会社の目的は利益である。利益があって従業員を雇うことができるし、新商品の開発ができる。
全ての意思決定はこの利益のために判断されるべきである。前職でも設備導入においては、安全や労働環境改善を除いて、ある期間にもうかる見込みがないと予算が下りなかった。
さて、食品工場に行くとだいたい似たような設備になっていることが多い。設備同士がつながれて自動化が進み、検査後の梱包工程にはコンベヤーと人がいる。最後に冷凍する工程であったらトンネルフリーザーに投入して梱包といったところ。一見、普通に稼働しており、特に問題がないように見える。
しかし私は、“もうける”という視点から2つの違和感を覚えている。
実際に私が訪問した食品工場では、先述の設備構成で1日の生産数は数千個、仕込み量はトンに近い。働く人は数秒サイクルに切り取られた単純作業を繰り返し、止まらない設備の恩恵の裏側で、廃棄された食品や梱包材が床に落ちていた。
この光景の背景にあるのは、「同じものを早く大量に作り、冷凍して保管しておく」という思想だと感じた。大量に作るため、ある程度の歩留まりを許容し、安く作るというスタンスが設備の構成にそのまま具現化されているのだろう。
大量生産が報われるのは、その分をきちんと売り切れる時だけである。需要が読める定番ならそれでよい。問題は、売れるか分からないものまで大量生産を前提に設備を組んでしまうことだ。一律に大量生産型であることに、違和感を覚えるのだ。
その考えのベースとなるのは、前職で教わったジャストインタイムの考え方だ。トヨタ自動車が自動車産業に進出して間もない頃、まだ工場で作られる自動車の品質が安定していないにもかかわらず、“一度にたくさん作った方が楽だから”とまとめて部品などを製造しようとする現場を、当時の豊田喜一郎氏がいさめたのが始まりである。
この思想では、必要でないものは作らないということが判断基準になる。原価計算がどうであろうと、まずは早く作らないということを軸に考えるのだ。設備導入の判断はもうかるかどうかである。今の時代、どれだけのものが需要過多なのだろうか。
もちろん食品には賞味期限、衛生管理、原材料調達など、自動車とは異なる難しさがある。そのため単純比較はできない。それでも私は一律大量生産前提の設備構成に違和感を抱く。
モノづくりは、もっと自由度があって良い。前職でも、希少な車種は一般にイメージされるコンベヤーではなく、手押し台車に載せて組み立てるところがあった。指導している繊維系の会社でも、家庭用のミシンを使って少量作る場所がある。なぜ食品は大量生産型が多いのか。
食品工場の多くは、設備をメーカー任せにしている。何が欲しいかを自分の言葉で定義しないまま相談に行き、出てきた提案をそのまま受け入れる。働く人が食品の専門家である以上、仕方ない面もあるが、あえて問題提起してみたい。
ここで必要なのは、設備を自社で一から製造する力ではない。設備導入において主体的に仕様を定め、メーカーと対等に議論できる技術力である。自動車産業には、それを担う「生産技術」という部署がある。設計者が作った図面をいかに安く、良い品質で量産するかを考える人たちである。
私も在籍したが、その仕事は多岐にわたり、設計者との議論(作りやすい形状へ変更する)、設備メーカーへ要求する仕様決め、原価計算、設備の開発、条件出し、稼働安定化など、図面を量産化する上ではなくてはならない部署である。
設備ではメーカーと技術論で対等に話をし、設備動作の何秒までこだわり、メーカーと共に作り上げる。私も前職で数千万円の設備導入を担当させてもらったが、毎日のように設備メーカーで組み上がっていく様子を見に行ったのは、良い思い出だ。
さて、食品工場において、設備メーカーと自信を持って会話できる会社はどれくらいあるだろうか。要求仕様として、設備の目的、スピード、安全基準などを言語化したものがあるだろうか。
完成度30点でもいいから仕様を書いているのか。何をもって開発し、完了したと決めているだろうか。先方の見積もりの妥当性を技術的に判断できているだろうか。
食品工場を訪問してもこれまでほとんど「この設備にこだわりがあるんですよ」と聞いたことがない。
失敗事例では、運搬工程だけのためにオーバースペックの設備が導入されているケースがあった。また、据え付けてみたものの当初のもくろみとは異なる結果になり、その経緯をたどる記録もないまま、現場が受け入れるしかなかったという話も耳にする。
要求仕様がなければ、完了の基準もない。結果として、設備メーカーの提案をそのまま受け入れることになる。
一方、うまくいっている会社は違う。自前で生産技術を持ち、日々自分たちで設備を改善し続けている。私の知り合いの会社では、製造技術にこだわり抜いた結果、圧倒的な短時間で製品化できる工程を自分たちで作り上げた。素材の風味が残ったまま商品になり、大ヒットした。製造技術は商品と同じく、自社の資産になり得る。
商品はもちろんだが、製造技術も、もうけるために他社との差別化要因になる。製造技術次第で、できたてをお客さまに届けられる可能性もあるのだ。
「え、オタクのところ、こんなにおいしいものをこんなに安く作っているの?」といわれるためには、技術力が必要である。
以上が私の視点から見た違和感である。それに対する提案も書いてみたい。先に筋道を示すと、人を育てて技術力をつけ、設備の要否を自分で判断できるようにする。その判断軸を「小さく作り、速く流す」に置けば、作りすぎと在庫のムダが減り、結果として利益が残る。提案はこの一本道の上にある。
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