別の視点でも見ていきましょう。SNAにおける投資とは、機械/設備や研究/開発など、長期にわたって付加価値を生み出す固定資産への支出です。投資時の取得費用は、投資によって得られた固定資産の価値との等価交換となります。
固定資産は毎年その価値を目減りさせながら生産能力を提供し、耐用年数が経過すれば生産能力が無くなり価値がゼロになるものとして扱われます。この毎年目減りする固定資産の価値を、企業会計では減価償却費と呼びますが、SNAでは固定資本減耗(CFC:Consumption of Fixed Capital)と呼びます。企業会計とは扱いが若干異なる面もありますが、減価償却費とほぼ同じものだと考えてください。
固定資本減耗は、投資によって構築された生産体制を維持するための費用ともいえます。この投資の中には、研究/開発やソフトウェアなど無形資産も含まれ、これらは一見すると物理的な損耗とは無縁のように感じますね。SNAではこのような知的財産生産物に対しても「陳腐化」などによって、資産価値が目減りしていく計算が盛り込まれているようです。
投資が多いということは、その分蓄積された固定資産残高も多く、固定資本減耗もそれだけ膨らんでいきます。投資が多くても付加価値が増えないと、その維持費用ばかりがかさみ、労働者への賃金や、企業自体に残る利益も目減りすることになります。
そこで、各国製造業の固定資本減耗について見ていきましょう。図6が対付加価値比での固定資本減耗の各国製造業の比較です。
各国製造業の固定資本減耗について、対付加価値比を計算してみると、やはり日本は主要先進国の中で突出して高い水準に達していることが確認できます。これは、稼ぎである付加価値に対して、固定資産の維持費用が多くかさんでいることを意味しています。それだけ、企業や労働者の取り分が圧迫されていることになるのです。
日本の製造業では、自動化や機械化が進んでいて、その分安く大量に生産する体制が構築されています。中小製造業でも高価な工作機械を多数保有している企業も多いようです。それだけ生産能力が高まっているのですが、その分機械や設備などによる生産の比重が高く、価格競争に陥り、付加価値を増やせていないばかりか、設備の維持に多くのコストがかかる結果となっているわけです。
日本の製造業は、金額で見た付加価値は増えていませんが、投資により安くたくさん作る方向性が進んだことで、実質的(数量的)な生産規模は拡大してきました。つまり、投資による規模の経済を優先して、価格を下げて、よりたくさん作るけれども、稼ぎは増えないという状況が続いてきたことになります。
さらに掘り下げて見ていきましょう。労働者が一定期間に稼ぐ付加価値を計算したものが労働生産性です。付加価値は、固定資本減耗を含む(粗)付加価値が一般的ですが、本来は固定資本減耗を差し引いた純付加価値が重要です。
ここでは、労働生産性の指標として労働者1人当たり付加価値と労働者1人当たり純付加価値を見比べることで、日本の製造業の特徴を可視化してみましょう。図7が、OECD各国の労働者1人当たり付加価値と、労働者1人当たり純付加価値を計算した結果です。
オレンジ色が労働者1人当たり付加価値で、グレーが労働者1人当たり純付加価値を表します。その差分は、労働者1人当たりの固定資本減耗となります。
日本の製造業の労働者1人当たり付加価値は、そもそも国際的に見れば低い方になります。ただし、サービス業など他の産業ではもっと低いので、産業の中で見れば製造業は健闘している方になります。
そして、労働者1人当たり純付加価値を見ると、さらに大きく目減りしている様子が確認できますね。スペインや、東南欧諸国と見比べてみるとよく分かります。日本は、労働者1人当たり付加価値ではスペインをやや上回るのですが、労働者1人当たり純付加価値では大きな差があります。
スロベニアやギリシャなどの東南欧諸国と比べてみると、労働者1人当たり付加価値では大きな差があるのですが、労働者1人当たり純付加価値では差が縮んでいます。日本は固定資本減耗が多い分だけ、もともと低い労働生産性が、正味の労働生産性ではさらに低くなっていることが示されています。
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