日本のデータスペース構想において特筆すべきは、その「目的軸」の置き方である。議論の端緒は欧州の環境規制への対応という側面があったが、日本が目指す姿は決して「受け身の規制クリア」ではない。
日本は現在、GX(グリーントランスフォーメーション)の推進、医療/ヘルスケアの高度化、物流の「2024年問題」に代表される深刻な人手不足など、数多くの社会課題に直面する「課題先進国」である。経団連が強調しているのは、データ連携を通じてこれらの社会課題を解決し、「新たな価値を創出していく」というプロアクティブな姿勢だ。
デジタル技術を活用して経済発展と社会課題の解決を両立する「Society 5.0」や「SDGs」の理念の下、産業データスペースを単なるITシステムとしてではなく、これらのビジョンを実現するための不可欠な社会インフラとして位置付ける。これこそが、日本における強力なアイデンティティーとなる。
新たに設立された「デジタルエコシステム官民協議会」の最大の特徴は、その包括的かつ実務的な推進体制にある。
政府側からは、デジタル庁が政府全体のデジタル政策を束ねる「司令塔」として全体の枠組みをリードし、産業分野を所管する経済産業省が実働面を強力にバックアップする。さらに実務的な調査/分析や研究については、デジタル庁と経産省の所管の下、IPA(情報処理推進機構)がその高度な知見を生かして実動部隊として機能する。
民間からは、データ技術に精通するデジタル政策フォーラム、データ社会推進協議会(DSA)、デジタルトラスト協議会、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会(RRI)といった専門組織が参画する。ここに、日本最大の総合経済団体である経団連が参画する。ITベンダーや特定の製造業だけでなく、データを実際に利用する幅広い産業の意見を吸い上げ、各専門団体の取り組みに「横串」を通して全体を調和させる。この「技術」と「実ビジネスのニーズ」を的確に結び付ける効果的な役割分担が、デジタルエコシステム官民協議会の最大の強みである。
日本が世界に向けて提唱し、主導している「DFFT(信頼性のある自由なデータ流通)」を具現化する上で、データスペースの根幹(インフラ)となるのが「トラスト基盤」だ。
国境を越えてデータを行き来させるためには、データの真正性(改ざんされていないこと)や、発信元のなりすまし防止を確実なものにする必要がある。日本国内には、タイムスタンプ、eシール、法人向けのgBizID(GビズID)、公的個人認証サービスなど、多様なトラストサービスがすでに存在している。
今後の焦点は、これらをどう組み合わせれば、欧州など海外のデータスペースとの「国際相互運用性」を担保できるのかという点にある。例えば、VC(Verifiable Credentials:検証可能なクレデンシャル)に対して、「これを持っていれば国際的にパスポートと同じ効力を持つ」というような、政府としての「法的なお墨付き(裏付け)」をいかに与えていくかが重要な論点となっている。
日本は欧州と対立するのではなく、ドイツの産業界などと対話を重ねながら「協調」路線を歩む。政府間/民間間の対話を通じて「何がそろえば相互に連携できるのか」を地道に確認し、不足する制度や技術を積み上げていくプロセスが現在進行形で進められている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製造マネジメントの記事ランキング
コーナーリンク