手書きの日報やExcel管理が残る製造現場で、データ活用をどう定着させるか。パナソニックはノーコードBIツールを導入し、現場主導の改善活動を推進。不良率の改善や年間約2200時間の工数削減を実現した。
パナソニックグループでは、2026年4月1日の新体制への移行に伴い、生活家電を手掛けるパナソニック くらしアプライアンス社とテレビなどAV機器を扱うパナソニック エンターテインメント&コミュニケーションが統合した新生パナソニックが発足した。新体制下でも変わらず、冷蔵庫や洗濯機、調理家電といった家庭向け家電の開発/製造から食のサービスまで、暮らしを取り巻く多様な領域で事業を展開している。
そのパナソニックで「ラムダッシュ」などの電気シェーバーを生産しているのが彦根工場(滋賀県彦根市)である。同工場ではB2B向けの給水ポンプも生産しており、BIツールの導入による現場改善を進めてきた。現在までに、約25%の生産性向上や、年間2200時間の現場工数削減といった効果も出始めている。
そこで、BIツール導入の背景から具体的な活用法、組織風土の変革に至るまで、取り組みを推進した、パナソニック ビジネスプロセスイノベーション本部 製造革新センター 拠点強化推進部 部長の井上真次氏と同 ビューティ・パーソナルケア事業部 モノづくり総合部 グローバル生産革新課 主務の野出広樹氏に話を聞いた。
(※)肩書きはインタビュー当時のもの。
MONOist 製造現場において、どのような課題があったのでしょうか。
井上氏 まず、パナソニック全体の背景として、現場のデータ管理が紙やExcelにとどまっていたことが挙げられます。製造、生産技術、品質、調達といった各部署のデータが分断されており、一元管理できていない点が大きな課題でした。その結果、現場で問題が発生した際にも「状況を確認しに行くのは間接部門のメンバーで、実際に対応するのは現場」という分断が生じており、改善に対するレスポンスが遅れていました。
野出氏 現場の視点では、データ収集のタイムラグが深刻な課題でした。例えば、「1日の生産予定1000台に対し、現時点で800台完了していなければならない」状況だとします。しかし実際には、「今何台できているのか」という進捗状況や、「どのような不良品が出ているのか」をリアルタイムで把握できなかったのです。
また当時、生産実績や不良品を記録する「日報」は手書きで作成し、後からPCへ転記するアナログな運用であったため、現状を可視化して確認するだけでも膨大な工数と時間を要していました。
MONOist これまでデジタルツールを導入しなかったのには、何か障壁があったのですか。
野出氏: そもそも、工場内にデータ活用を推進できるデジタル人材が不足していたことが挙げられます。その上で、苦労して手書きのデータをPCに移したとしても、具体的な改善アクションへと結びつけることができませんでした。少し言い方が悪いかもしれませんが、昔ながらの「長年の経験や勘」がどうしても先行してしまう風土があったのです。
井上氏 パナソニック全体として、現場がデータを基に自分たちで改善できる取り組みにしたいという思いから、2022年に「デジタルデータ収集活用推進分科会」を立ち上げました。ツールを選定において決め手となったのは、「ノーコードで構築できる」という点です。Salesforceが提供する「Tableau(タブロー)」が、AI(人工知能)を活用してデータの可視化や分析を行う「Tableau Pulse」や、データの結合や形式変換ができる「Tableau Prep」など各機能を、プログラミング不要のノーコードで実装できる点に魅力を感じ、導入を決定しました。
野出氏 彦根工場でも、2024年頃から「アナログな手法ではいつか限界が来る」という危機感がありました。分科会でTableauに触れ、この直感的なUIなら非情報系の現場メンバーでも使いこなせると感じたことが導入の決め手です。2025年3月のTableau Pulse日本語対応を機に、本格導入を進めました。
MONOist 導入後、現場のデータをどのようにBIツールへ連携し、具体的に「何」を見える化したのでしょうか。
野出氏: データの収集には既存のシステムも活用しています。具体的には、生産設備のPLC(制御装置)のデータや、作業員が現場の作業員が現場でタブレット端末に入力した製造データをサーバに蓄積し、Tableauと連携させています。
見える化したダッシュボードは大きく分けて2種類あります。1つは、生産性や不良率といったKPI全体を把握する「責任者(経営層)向け」。もう1つは、品質不良などの原因を深掘りし、改善アクションにつなげる「担当者(現場)向け」です。工程別の稼働状況や時系列での生産性、ピッチタイムなど全体の数字をリアルタイムで確認し、気になるところがあれば詳しく見られる形にしています。
彦根工場はもともと「現場を改善したい」という意欲を持つメンバーが多く、「これまで一生懸命に紙のデータを読み解いてきた作業がデジタル化で楽になる」と分かったため、好意的に導入が進みました。
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