実証は、JAXA相模原キャンパス内の屋内実験場「宇宙探査フィールド」で行った。同フィールドは面積400m2、天井高10.5mを有し、外光を遮断することで月面の照度環境を模擬できる構造だ。フィールド床面には、月/惑星の表面を模して425トンの硅砂(けいしゃ)が敷き詰められている。また、宇宙空間の太陽光を再現する人工太陽光照明灯や屋内クレーン、モーションキャプチャーシステムなどを備えており、探査ロボットなどの機能確認や運用試験が可能な環境を構築している。
実証では、フィールド床面に配置した3基のRGB LEDおよび9基の白色灯に加え、壁面沿いに設置された既存の照明装置を用いた。これら光源の3次元座標は事前に計測し、システム上に登録しておく。
ローバー(探査車)側は、機体前方/後方にカメラを2台設置し、その他は小型演算用コンピュータ、加速度センサーなどを搭載したものを使用する。実証では、ローバーを実験員が手動で走行させ、ピカリコによる自己位置推定を実施した。この算出値と、実験棟に配備されたモーションキャプチャーシステムが計測する値をリアルタイムで照合することで、測位誤差の検証を行った。現時点では、静止時の測位誤差は平均5cm以内、走行移動時においては30cm以内という結果が確認できたという。
運用のポイントとなるRGB LEDの必要数については「測位開始時に、車載カメラの画角内で最低3基のRGB LEDを捉えることで、その後は白色灯のみが映る環境下であっても継続的な測位が可能であると考えている」(カシオ計算機 R&D統轄部 SWHW技術開発部の宮本直知氏)という。
実証では想定し得る最大数の照明を配置したが、今後はシミュレーションなどを通じて、測位精度を維持するために必要な照明の最小個数や最適配置距離の算出を進める方針だ。
プロジェクトに参加するJAXA 宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 助教の牧謙一郎氏は、ピカリコの優位性について次のように語った。「この技術は月面基地の建設現場のような限定されたエリアにおいて、複数のロボットが同時に測量や整地、資材運搬を行う場所の管理がしやすいことが特徴。将来的には月でもGNSSなどの整備が進む可能性もあるが、ピカリコは電波の届かない縦穴や横穴といった閉鎖空間の探査においても活用が見込まれる。まさに『光の物差し』といったイメージ」(牧氏)。
一方で、実用化に向けては技術的課題も残っている。月面の一部エリアでは太陽光によるハレーションや影が発生する。これらが照明の視認性を阻害しないよう、処理アルゴリズムを高める必要がある。また、月面の凹凸による車体振動下であっても、正確に光信号を抽出する技術が求められる。カシオ計算機とJAXAはこれらの課題に対し、アルゴリズムの改良や実証実験を重ねることで、システムの正確性を向上させていく方針である。
牧氏は今後の展望について、「将来的には月面基地建設のあらゆるフェーズに対応する『シリーズ』として体系化することも検討していく」と語る。JAXAは2030年代以降、月面でのインフラ構築と、持続的な探査を目指す構想を掲げている。検証を重ねピカリコによる測位システムを確立し、人類の月面活動領域の拡大に貢献する考えだ。
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