機関室内でひときわ目を引くのが、オレンジ色の鋼製ケースに収められたガスバルブユニット(GVU)だ。GVUは、水素混焼エンジンに供給する水素量を、エンジン出力や回転数に応じて瞬時に制御する。タグボートは、えい航開始や離脱、急な前後進切り替えなど、出力変動が極めて激しい船種であるが故に、そのたびに水素供給量を精密に制御しなければ燃焼の安定性を保てない。GVUは、この“タグ特有の使われ方”に応えるための装置ともいえる。
一方で、GVUは構造上、配管のように二重化することが難しい。そこで天歐では、ユニット全体を鋼製ケースで覆い、二重配管と同等の安全機能を持たせる構造を採用した。内包ユニットで漏えいが起きてもGVUの外側ケース内に封じ込められ、船内へ拡散しない。二重配管思想を、装置単体で“再現”したといえる。
天歐では、水素に関連した安全管理として水素漏えいセンサーを船内13カ所に配置し、タンク周辺、配管経路、機関室など、想定されるリスクポイントを網羅的に監視している。異常検知時には自動的に水素運転を停止し、A重油専焼に切り替わる。推進力が途切れることはなく、作業船としての機能を最優先する設計だ。加えて、機関制御室およびブリッジには水素供給の非常停止ボタンが設けられ、乗員による即時対応も可能としている。
ブリッジの操作感は、従来のタグボートとほぼ変わらない。操船者に新たな習熟を強いる要素は最小限に抑えられている。推進装置には360度旋回可能なアジマス推進器を採用し、操船系の構成も従来のタグボートに準じている。水素混焼によって操船レスポンスが変化することはなく、船長は特別な操作を意識する必要がない。居住区も最大6人を想定した通常仕様で、食堂や浴室、洗濯乾燥設備を備える。天歐は“実験船”ではなく、現場で使う作業船として設計されている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
モビリティの記事ランキング
コーナーリンク