水素混焼タグボート「天歐」は“未来の実験船”ではなく“最初の現実解”イマドキのフナデジ!(11)(2/3 ページ)

» 2026年02月10日 08時00分 公開
[長浜和也MONOist]

機関室内でひときわ目を引く「GVU」

 機関室内でひときわ目を引くのが、オレンジ色の鋼製ケースに収められたガスバルブユニット(GVU)だ。GVUは、水素混焼エンジンに供給する水素量を、エンジン出力や回転数に応じて瞬時に制御する。タグボートは、えい航開始や離脱、急な前後進切り替えなど、出力変動が極めて激しい船種であるが故に、そのたびに水素供給量を精密に制御しなければ燃焼の安定性を保てない。GVUは、この“タグ特有の使われ方”に応えるための装置ともいえる。

機関室中央から船尾方向を見ると後端両舷にオレンジ色の“筒”がある 機関室中央から船尾方向を見ると後端両舷にオレンジ色の“筒”がある。これがガスバルブユニット=GVUだ[クリックで拡大] 出所:日本財団
GVUを収容した構造物 GVUを収容した構造物はオレンジ色の外筒の内部にGVUを収容した内筒を収めた2重構造とすることで水素ガスの船内漏えいを防ぐ[クリックで拡大] 出所:日本財団

 一方で、GVUは構造上、配管のように二重化することが難しい。そこで天歐では、ユニット全体を鋼製ケースで覆い、二重配管と同等の安全機能を持たせる構造を採用した。内包ユニットで漏えいが起きてもGVUの外側ケース内に封じ込められ、船内へ拡散しない。二重配管思想を、装置単体で“再現”したといえる。

 天歐では、水素に関連した安全管理として水素漏えいセンサーを船内13カ所に配置し、タンク周辺、配管経路、機関室など、想定されるリスクポイントを網羅的に監視している。異常検知時には自動的に水素運転を停止し、A重油専焼に切り替わる。推進力が途切れることはなく、作業船としての機能を最優先する設計だ。加えて、機関制御室およびブリッジには水素供給の非常停止ボタンが設けられ、乗員による即時対応も可能としている。

ブリッジに設置してある水素漏えいセンサーモニター ブリッジに設置してある水素漏えいセンサーモニター。船内13カ所に設置したセンサーの値を集約して確認できる[クリックで拡大] 出所:日本財団

 ブリッジの操作感は、従来のタグボートとほぼ変わらない。操船者に新たな習熟を強いる要素は最小限に抑えられている。推進装置には360度旋回可能なアジマス推進器を採用し、操船系の構成も従来のタグボートに準じている。水素混焼によって操船レスポンスが変化することはなく、船長は特別な操作を意識する必要がない。居住区も最大6人を想定した通常仕様で、食堂や浴室、洗濯乾燥設備を備える。天歐は“実験船”ではなく、現場で使う作業船として設計されている。

「天歐」の操舵室 「天歐」の操舵室[クリックで拡大] 出所:日本財団
操舵室前面に配置した操船系&機関監視コンソール 操舵室前面に配置した操船系&機関監視コンソール。そのレイアウトは従来型タグボートとほとんど変わらない[クリックで拡大] 出所:日本財団
水素混焼エンジンを載せていることを示す数少ない特徴 水素混焼エンジンを載せていることを示す数少ない特徴が監視モニターに表示される水素混焼ディーゼルエンジン「12DZD H2」とその手前にある赤い「水素供給非常停止」プッシュボタンだ[クリックで拡大] 出所:日本財団

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