この「他部門への介入」という点において、製造業は流通/小売業と比較して構造的な困難さを抱えている。流通/小売業にとって、商品を店舗や消費者に届ける物流網は事業競争力の源泉そのものであり、経営戦略と物流戦略は親和性が高い。物流部門の発言力も強く、トップダウンでの改革が進みやすい土壌がある。
しかし、製造業は事情が異なる。製品というモノを売ることを主力事業とする製造業では、価値ある製品を生み出す開発部門、その製品を効率良く生産する生産部門、多くの顧客に届ける販売部門の権限が強く、これらの部門と比べてサプライチェーンの間をつなぐ役割の物流部門の発言力は相対的に低い。結果として、物流側の在庫過多や出荷の偏りを招いていたとしても、物流部門からの是正要求は通りにくい構造にあった。
この「部分最適」の壁を越えるためには、強力なリーダーシップが不可欠である。CLOとして経営層が関与し、調達/生産/配送を一気通貫で管理する体制へと作り変える必要がある。
「任命予定はない」とする企業が足踏みする一方で、先行企業はCLOを中心にサプライチェーン全体の再構築を着々と進めている。すでにCLOを設置しているダイキン工業や日清食品ホールディングス、SUBARUなどがその代表例だ。これらの企業では、役員級のCLOが部門横断的な視点で物流改革を主導している。
ダイキン工業では、専務執行役員がCLOを務め、工場出荷の平準化や、競合他社との共同配送といった、事業部の枠を超えた抜本的な改革を行っている。特に、空調機の繁忙期における出荷波動を抑えるため、生産計画と物流リソースをリアルタイムに連動させる仕組みを構築するなどの取り組みを行っている。
日清食品ホールディングスは、CLO主導の物流構造改革「NISSIN LOGISTICS EX」を推進している。同社では物流子会社との密な連携に加え、AI(人工知能)を活用したコンテナ積載率の最適化や、最新鋭の完全自動倉庫への投資を加速させている。さらに、深刻なドライバー不足に対応するため、荷待ち時間の削減といった「ホワイト物流」の徹底をグループ全体に課している。CLOが、物流現場のデジタル化と、取引先を含めたサプライチェーンの適正化に取り組んでいることが特徴である。
また、現時点で「CLO」という名称の役職を設置していなくとも、実質的な改革を成功させている企業もある。マツダやヤマハのように、サプライヤーとの共創による調達物流の最適化や、物流DXツールの導入による作業効率化など、CLOが果たすべき機能を組織全体でカバーしている例も多い。
このように大手企業の中でも、物流に対する意識の二極化は進んでいる。CLOの義務化は、単に誰かを任命して終わりというゴールではない。むしろ、これまで「運んで終わり」とされてきた物流部門が、会社の利益向上や優位性獲得に大いに貢献する可能性がある。
2026年、製造業が長年抱えてきた部門最適化の壁を壊し、持続可能なサプライチェーンを構築できるか。CLOという新たな触媒を得て、製造現場と物流現場の対話が始まることに期待したい。
なお、MONOistでは今後、物流改革で先行する製造業のCLOが実際にどのような取り組みを行って課題を解決しているのかを深掘りしたインタビュー連載を掲載していく予定である。
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