デジタル人材の育成における社内の障壁に関する調査についても、前回と同様に「日々の業務に追われて育成に時間が割けない」という回答が一番多いという結果になった。システム開発における内製化比率の全体平均は、前回比2ポイント増の31%と微かながら増加したが依然として低水準である。
アプリ開発の環境やシステム開発のコア領域でのAI活用について、その他が先進/準先進と比べて大きく後れを取っている。中山氏は「システム開発の内製化が進まずに停滞水準にとどまってしまう。現場で実際にDXを実践する場がないため活用が遅れてデジタル人材が育たなくなり、育成が進まないせいで新たな手法や技術を試すという迅速性も無くなるといった形で“負の連鎖”に陥っている日本企業が多いと思っている」と分析する。
PwCコンサルティングは、日本企業が置かれているDX活用の現状について、ITを“裏方”のままにする限りDXは成功しないと分析している。生成AIが普及したことにより、企業の価値が市場変化への俊敏性と弾力性で決まる時代に突入している。このような状況では従来は裏方であったITが競争優位の源泉になる。
PwCコンサルティング ディレクターの鈴木直氏は「予算や計画を守って/作って終わりというプロジェクト型のマネジメントスタイルから顧客に価値を提供してフィードバックをもらい、そこから得た学びから継続的な改善を続けていく『プロダクトマネジメント型』に切り替える必要がある」と強調する。組織の事業部門は顧客価値や利用者価値といった部分を中心にし、サービス/プロジェクト単位でチームを編成する必要がある。そして、事業部門のサービスチームがDXシステムや技術に関する仮説検証を、高速かつ安全に実施できるようにIT部門が支援することで、企画/開発/運用/改善を一気通貫で実行できる体制を整える必要がある。
IT部門の役割を見直すと共に、従来のやり方を「アジャイル型プロジェクトマネジメントへの移行」「IT内製範囲の再定義およびケイパビリティの強化」「ビジネス効果の大きいIT領域への生成AI活用」「コミュニケーションスタイルの変革」という4つの視点での変革が必要だとPwCコンサルティングでは考えている。
特にコミュニケーションスタイルの変革は日々の業務に忙殺される状況から抜け出し、AI活用の幅を広げていくことができる。情報が非公開で散らばっている、会議や口頭での対面重視の同期コミュニケーションが中心の仕事のやり方では、分からない情報を社内で調べても見つけることができず、調整が増えて仕事のスピードが上がらない。
この状態だとAIに学習させるデータも不十分になってしまうので、AI活用も限定的になってしまい、生産性を低下させる悪循環を生み出している。この状況から抜け出すためには、情報をなるべく公開してメールやチャットなどの非同期コミュニケーションを主体にしていく必要がある。これにより、文字情報がデータベースに蓄積してAIに学習させることで、必要な情報をすぐに入手できる環境を構築できる。
PwCコンサルティング ディレクターの岡田裕氏は「社内会議についても、AIが読みやすいフォーマットで事前に論点をまとめておき、質疑応答を中心に短時間で終了させ、形に残すといった形で見直すタイミングが来ている。同期コミュニケーションと非同期コミュニケーションといった違いを把握して、状況を都度判断してコミュニケーションの方法を変えていく必要がある」と述べている。
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