これらの生産技術プラットフォームを生かしつつ、パナソニックHD MI本部では、未来のモノづくりの在り方として、3つの変革ポイントを定めている。
まず、実現したい未来の社会として「『地球・心身の健康』と『経済的価値』を同時に追求できる仕組みを土台に、一人一人の自己効力感や創造性につながる能動的な選択ができる社会」がある。これを構成要素などに分解して考え、モノづくりにおいて実現すべき変革ポイントとして「人や資源の価値を再生/増幅させる」「オープン化/コンカレント化による柔軟なプロセス」「個々に最適化されたソリューションの提供」の3つを位置付けている。
松本氏は「若い人に未来の話を聞いても、多くの人が希望の持てない“ディストピア”のような世界を予想している。AIの普及の中で、AIに命令されるだけの生活であったり、環境破壊により衰退している姿だったり、そういう世界を描く人が非常に多い。そういう人が少しでも希望を持てるようにしていきたい。そのために変革に取り組んでいく。パナソニックグループだけでは難しいかもしれないが、オープンに参加してもらう形でできれば、変革にも近づきやすく日本も活性化する」と考えを述べている。
その中でも「人や資源の価値を再生/増幅させる」世界を実現するサーキュラーエコノミーについては、製造だけではなく再生を中核に据えたサプライチェーンの在り方を描く。「個人やコミュニティー、地域、広域、それぞれのループで製造と再生の役割分担を進め、それらをつなぐ物流や情報のネットワークを実現することで近づけることができる。こうしたプラットフォームをどう作るのかが重要だ」と松本氏は語る。
リサイクルなど資源循環については、現状はさまざまな規制対応が中心だとしているが「その先については、理想とする将来像に向けたパーツを一つ一つ埋めていっている段階だ。例えば、リサイクルや修理しやすい設計についても、リサイクル工場であるパナソニック エコテクノロジーセンター(PETEC)と連携し、メンバーを派遣しながら課題の洗い出しを行い、ロボットの活用などの研究開発を行っている」と松本氏は説明する。
AIの進化が顕著な中、「フィジカルAI」などによりモノづくりの現場が大きく変わる可能性もあるが、松本氏は「意外に難しい部分も多い」とする。
「フィジカルAIの進展で期待されているのが、人と同じように作業できる人型ロボットの実現だが、現状は工場で働く人が人型ロボットに置き換わるにはまだまだ時間がかかる。特に、指1本1本の繊細な動きなども含めて、モーション領域は人と同じようなことをロボットで模倣するには相当ハードルが高い。さらに、実際に工場で使うとなると人の費用対効果を上回る必要があるがそのハードルも高い。ただ、人型ではなく既存のアーム型ロボットなどの制御を簡単にできる利点などは大きく、部分的なところから利用が進んでいくものだと考えている」と松本氏は展望する。
AIなどを活用することでさらなる自動化が進めば、工場でのモノづくりにおける人の役割は小さくなっていくようにも見えるが「自動化は進んでいくと見ているが、工場から人が完全に消えることは当面ないのではないか」と松本氏は考えを示す。
「モノづくりの完全自動化への動きは2000年前にも進んだことがあり、実際に大規模な自動化設備を導入した企業も多くあったが、結局はその時も工場で働く人の数はそれほど減らなかった。メンテナンスや改善活動などで結局人手は必要なままだった。その後は、アジアの労働力開放が進み、人手の柔軟性を生かしたモノづくりへとシフトし、人手への回帰が進んだ。逆に人手で組み立てやすいものへと設計が変わり、そのまま自動化することが難しくなっている状況も生まれている。フィジカルAIの活用は、これらで難しくなった自動化領域を再拡大するという意味で役立つと見ている」と松本氏は語っている。
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