鋼の高純度化/高清浄化技術鉄鋼材料の基礎知識(5)(2/3 ページ)

» 2025年12月03日 07時00分 公開
[ひろMONOist]

鋼の高清浄化技術

 ここまで説明した鋼の高純度化技術は、鋼中の不純物を極限まで低減する技術でした。ここから説明する鋼の高清浄化技術は、主に“介在物の低減”や“介在物の形態制御”にアプローチする技術となります。

介在物の種類と鋼に対する影響

 介在物は正確に言うと「非金属化合物」であり、鋼中で“異物”のように生成される非金属の物質です。介在物の種類としては硫化物系(FeS、MnSなど)、酸化物系(Al2O3、SiO2、MnOなど)、窒化物系(AlN、TiNなど)などがあります。これらの介在物を顕微鏡で観察すると、粒形や、圧延や鍛造によって細長く伸びた形として観察することができます。

 介在物が鋼中に存在すると、鋼の機械的性質低下、加工性低下、早期疲労破壊などを引き起こします。これは、介在物がき裂の発生源となり、き裂の進展を助長するためです。特に自動車などの分野で使用される特殊鋼は、介在物の存在が材料特性にシビアに影響します。

 例えば軸受用鋼では、介在物がはく離の起点となって転がり疲労寿命を低下させます。弁ばね用鋼では、介在物が疲労破壊の起点となって疲労強度を低下させます。介在物の量が多い場合やサイズが大きい場合は、それらの強度特性が顕著に劣化します。

図4 介在物の顕微鏡写真 図4 介在物の顕微鏡写真[参考文献1][クリックで拡大]

介在物の生成起源

 介在物の生成起源は大きく、内生的なものと外来的なものに分けられます。内生的なものは溶鋼中で起こる反応によって生成されるものであり、起因物としては「脱酸生成物」や「溶鋼の再酸化」などがあります。脱酸生成物について詳しく説明すると、一次精錬における酸素吹錬後、溶鋼中には大量の酸素が溶存することとなります。

 そこでアルミニウム(Al)やケイ素(Si)などの脱酸剤を添加し、強制的に酸素と反応させて浮上分離させます。このとき生成される酸化物が脱酸生成物であり、浮上分離せずに鋼中に残存すると、介在物となります。

 外来的なものは溶鋼の外部から溶鋼中に混入して生成されるものであり、起因物としては「スラグの巻き込み」や「耐火物の溶存」などがあります。スラグは精錬中に溶鋼の不純物をからめとるカルシウム(Ca)系の材料であり、不純物を多く含みます。

 通常、スラグは溶鋼の上部表面を覆うように浮上していますが、対流によって溶鋼内部に巻き込まれて留(とど)まってしまうと、それが介在物となります。また、耐火物は炉や取鍋の内側を保護するために使用されるれんがであり、経年劣化などによって溶鋼中に溶存してしまうと、それが介在物となります。

図5 介在物の生成起源 図5 介在物の生成起源[参考文献2][クリックで拡大]

鋼の高清浄化プロセス

 介在物の量やサイズを極限まで低減した鋼は「高清浄鋼」と呼ばれ、信頼性が高く、最終製品の安全性や機能性を支えます。日本は高清浄鋼の製造プロセスに強みがあり、製鋼工程から鋳造工程に至るまで徹底して鋼の汚染を防止する管理が行われています。特に二次精錬工程は高清浄化の要となる工程であり、「取鍋精錬」や「RH真空脱ガス処理」によって介在物の要因となる不純物が徹底的に除去されます。

 例えば取鍋精錬では、改質したスラグの使用と溶鋼の攪拌によって脱酸生成物の除去が図られています。さらには、介在物の形態を制御して介在物を無害化する技術も取り入れられています。鋳造工程では、タンディッシュ内の溶鋼の再酸化を防止するために完全断気が図られています。

 鋳型注入時には電磁ブレーキによって溶鋼の下降流速を低減し、鋼片への介在物混入を防止しています。高清浄鋼は、これらの徹底した管理によって製造されています。さらに、製造する材質に応じて以下に紹介する特殊溶解法や特殊精錬法が活用されています。

特殊溶解法

 特殊溶解法は、真空下で鋼を溶解したり、製造した鋼を再溶解したりすることによって高清浄な鋼塊(こうかい)を製造する方法です。

VIM

 VIM(Vacuum Induction Melting)は、日本語で「真空誘導溶解」と呼ばれる金属溶解法です。高真空下または不活性ガス雰囲気下で、コイルによる誘導加熱を用いて鋼の溶解を行います。溶解した鋼は同一の装置内で脱ガス精錬され、鋳造も行われます。これらの操作が真空下または不活性ガス雰囲気下で行われるため、大気による溶鋼の汚染がなく、鋼中の非金属介在物を低減することが可能です。

 VIMは、後述するVARまたはESRと組み合わせて使用されることが多く、これによって介在物の少ない高清浄な鋼を製造できます。製造された鋼は、航空機の部材やガスタービン用の耐熱部材など、高い信頼性が要求される製品に使用されています。

図6 VIMの概略図 図6 VIMの概略図[クリックで拡大]

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