NSKワーナーは、EV(電気自動車)の電動駆動システムであるeAxleなど、自動車の駆動系に搭載されるモーターの高電圧化に対応する「導電バイパスプレート」を開発したと発表した。
NSKワーナーは2025年10月20日、オンラインで記者会見を開き、EV(電気自動車)の電動駆動システムであるeAxleなど、自動車の駆動系に搭載されるモーターの高電圧化に対応する「導電バイパスプレート」の提供を開始すると発表した。同製品は2026年早期に市場導入を予定しており、2027年に年間10億円の売り上げ達成を目指す。また、「Japan Mobility Show(ジャパンモビリティショー) 2025」(プレスデー:10月29〜30日、一般公開日:10月31日〜11月9日)では実物の展示を予定している。
日本精工と米国ボルグワーナー(BorgWarner)の合弁会社であるNSKワーナーは、自動変速機向けの変速用クラッチを主力製品とし、事業を展開してきた。しかし、近年ではHEV(ハイブリッド車)やEVなどの電動車の普及によって、動力源にモーターを使用する割合が高まっており、駆動系の構造も大きな変革が求められる時代になっている。
NSKワーナー 技術本部 フリクション製品技術部 FP技術2グループ マネジャーの高林秀明氏は「EVの航続距離の短さや充電時間が長いという問題を解決するために、モーターの高電圧化が今後のトレンドになる。この流れに対応するためにわれわれは電動化製品の開発を進めてきた」と語る。
ただし、モーターを高電圧化するには幾つかの課題を解決する必要がある。その1つとして挙げられるのが、「軸受(ベアリング)の電食」だ。自動車の駆動軸であるシャフトの部分には、軸の回転を円滑にするための軸受が取り付けられている。そして、回転中の軸受に電圧/電流が流れると軌道輪と転動体の間に絶縁破壊(スパーク)が発生し、表面が損傷してしまう。この現象が電食である。軸受の電食によって異音が発生してしまい、最終的には車両が走行不能に陥ってしまうことがあるので、しっかりとした対策が重要である。
また、複雑な電気回路が存在する車両では、高電圧モーターにより発生した電圧/電流を起因として電磁ノイズが発生し、各種システム制御の誤作動につながる可能性がある。そのため、電磁ノイズによる不具合が起こらないように電子機器同士が共存できるようにするEMC(電磁両立性)対策が必要である。
NSKワーナーはこれらの背景から、電気を外部に逃がすことが可能な導電バイパスプレートを開発した。同製品は、駆動系のシャフトと部品を保護するために外側に取り付けられているハウジングの間に組み込むことで電気の流れを作り、軸受の内部に電流が通る状態を無くして不具合発生を防ぐ。
同製品は、NSKワーナーが培ってきた、油中でも使用できる多孔質のペーパー技術に、高い導電性を付与する新しい技術を融合させることで誕生した製品だ。電気を伝えることができて油中でも使用な可能な「導電ペーパー」と、スプリングの反力によって導電ペーパーを電気を伝えたい面に押し付けて安定した接触を実現する「ダイヤフラムスプリング」の組み合わせが、高い導電性と省スペース性を世界最高水準で両立させるとともに安定した性能につなげている。
導電性は他社のリングタイプ導電アイテムと比べて約10倍以上の性能を有している。厚さは0.3mm以下であり、他社製品と比べて約10分の1の省スペース性を実現している。「主力となる製品は0.15mm以下、コピー用紙2枚分の厚さを目指して設計を進めている」(高林氏)。
他社の導電アイテムはペーパー状ではなくブラシ状のモノを使用することが多く、従来だとシャフトとの接触性を高めるためにある程度の大きさが必要であった。この状態から導電アイテムを同製品に置き換えることで、専有する容積を大幅に削減しつつ、ブラシ状のモノと同じような機能を発揮できる。
また、導電バイパスプレートは環境面にも考慮しており、環境負荷物質は一切使用せずに使用資源を極限までに抑えた設計にしている。高林氏は「顧客側は導電バイパスプレートを導入することで、自動車の軽量化や小型化など設計の自由度を大幅に向上できる。新製品にはNSKワーナーの既存製品技術を詰め込んでおり、さまざまな温度の場所やオイルの種類であっても活躍できる製品である」と述べている。
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