高温超電導集合導体を用いた超電導モーターは、従来のモーターに比べ、大幅に軽量でコンパクトだ。積載量(ペイロード)の増加にも貢献するため、電動航空機の実用化を後押しする。しかし、従来の高温超電導集合導体では電力ロスが大きく、こういったモーターを作れなかった。その問題を解消する事業が本格始動した。
古河電気工業(古河電工)、京都大学、産業技術総合研究所、高エネルギー加速研究機構は2025年10月16日、東京都内でラウンドテーブルを開き、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する「2025年度 先導研究プログラム/フロンティア育成事業」において採択された研究開発テーマ「産業用電磁石の極限性能に資する高温超電導集合導体の研究開発」が本格的に始動したと発表。併せて、開発を進める高温超電導集合導体の概要や要素技術を紹介した。
同事業は、2040年以降の新産業創出を目指し、国として新たに取り組むべき領域(フロンティア領域)の研究開発と事業を推進している。同テーマでは、「極限マテリアル」領域における高温超電導技術の革新を目指す。
なお、今回の高温超電導集合導体は、設備/動力機械の省エネ化/小型化によるCO2排出量の削減、医療用加速器の小型化/ヘリウムレス化による医療基盤の強化、電動航空機用モーターの軽量化による航空輸送のカーボンニュートラル化、液体水素冷却超電導発電機の普及による水素社会の推進、小型核融合(フュージョン)炉の実用化による基幹電源の革新など、多分野への応用が期待されている。
京都大学 大学院工学研究科 電気工学専攻 教授の雨宮尚之氏は「高温超電導集合導体を用いた超電導モーターは、従来のモーターに比べ、大幅に軽量でコンパクトだ。積載量(ペイロード)の増加にも貢献するため、電動航空機の実用化を後押しする。電動航空機は、ジェット燃料を燃焼しないため、飛行によるCO2排出量が少なく、環境に優しい」とメリットに触れた。
超電導技術は、極低損失での電流輸送や銅コイルでは不可能な高磁界の発生といった利点がある。これらのメリットにより、電気効率に優れ、軽量かつコンパクトな電気機器や、銅線やアルミ線では実現できない強力な電磁石の開発、核融合発電の実現に貢献するとされている。
しかし、レアアース系高温超電導線材(REBCO)など、幅広(典型値4mm)でテープ形状の高温超電導線を用いた超電導技術には3つの課題がある。1つ目は電流/磁界が損失すると、交流損失が発生する点だ。交流損失は、磁気が細い磁束量子線となり超電導体の中に侵入し移動するときに発生する摩擦発熱のようなものだ。これにより、温度が上昇して超電導状態を保てなくなるだけでなく、除熱に必要な電力のため電気機器の効率が低下する。この解決策としては、超電導体を細く分割し、マルチフィラメント化して交流損失を減らす方法がある。
2つ目は多くの実用機器で必要となる数千〜数万アンペア(A)級の電力を流せない点だ。3つ目はテープ形状をしているため、長さ方向には曲げやすいが、幅方向には曲げにくく、多様なコイルに巻けない点だ。
そこで、京都大学の雨宮氏が率いる研究室(雨宮研究室)を中心とした研究チームは、科学技術振興機構の先端カーボンニュートラル技術開発事業「ALCA-Next」で支援を受け、古河電工製の線材「IFB-REBCOテープ」を加工した「銅複合マルチフィラメント薄膜高温超電導線(IFBマルチフィラメント線)」を用いて、4層構造の高温超電導集合導体「SCSC-IFBケーブル」を開発した。
IFB-REBCOテープは、フィラメント間に超電導ブリッジを設けた高温超電導線材で、局所的な欠陥があっても電流が迂回できる構造を持つ。これにより、通電安定性が向上し、交流損失を大幅に低減する。柔軟性にも優れ、複雑なコイル形状への適用が可能で、次世代エネルギー機器への展開が期待されている。
SCSC-IFBケーブルは、交流損失が小さく、大きな交流電流を流せる他、任意の方向に曲げられる。同ケーブルは、芯材(金属製コア)の周りに、銅めっきマルチフィラメント薄膜高温超電導線をらせん状に、複数層にわたって巻き付けた構造をしている。
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