コロナ禍以降、中国勢を筆頭としてリチウムイオン電池の生産量は急速に伸びており、LFP系電池パックを中心にエネルギー密度も劇的に向上している。電池の価格低減も第3の波に突入し、EVのコストはガソリンを用いる内燃機関車に近づきつつある。
しかし、EV導入の大きな目的となっている脱炭素については、エネルギーの安全保障や自国の経済振興などの重要性がグローバルで高まっていることもあり相対的に比重が低下しているのが現状である。渡邊氏は「脱炭素にかけるコストは、家庭でいう学資保険や塾の費用みたいなものだ。脱炭素とエネルギー安全保障をどっちかやればいいのではなく、どっちもやる必要がある」と語る。
国連の枠組み機関で、環境問題に関する技術や科学面を中立の場で分析/公表する「IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)」の調査結果によると、地球温暖化対策で最も有効な技術は、太陽光/風力発電とモビリティ分野である。これらの産業に注力することで、経済的な合理性と脱炭素への貢献を両立させることができる。そのため、コスト効率の高いCO2の削減には、蓄電池の存在が必須である。
EV化を進めるとむしろCO2が増えるのではないかという意見があるが、パナソニック エナジーが試算をした結果、生産時点ではCO2排出が多いが、約3万km走行すればガソリン車とのCO2排出量が逆転し、10万km走行すれば十分な効果があると判明した。渡邊氏は「われわれが1年間に生産した電池、EV約50万台相当が将来どれだけCO2を減らすかを計算すると1600万トンになる。この1600万トンという数字は、東京ドーム26万個分の面積の森林が吸収するCO2に匹敵する。CO2の削減はやってもしょうがないのではなく、やれば効果がある」と強調する。
また、パナソニック エナジーは未来に向けた人材教育への取り組みも行っている。電池人材の拡大のため独自に奨学金を出しており、大阪公立大学で立ち上げた電池人材育成プログラムで大学生を教えている。先端電池の研究開発では、電気化学だけでなく製造に関わる分野などたくさんの技術者が必要であり、そうした人材を国内電池産業に招き入れるためのアピールにもなっている。
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