貿易には輸出と輸入の2方向があり、輸出の多い国ほど輸入が多い傾向があります。これらを差し引きした純輸出は、輸出がどれだけ超過しているかを表し、GDPに加算される重要な指標です。
最後に純輸出の対GDP比(図4)についても確認してみましょう。
当然ですが貿易は輸出と輸入の2方向があり、自国の輸出は相手国にとっての輸入となります。輸出が超過し純輸出がプラスになる国がある一方で、必ず輸入が超過し純輸出がマイナスになる国が存在することになります。
各国の純輸出を見ると、アイルランド、ルクセンブルク、ノルウェーなど人口が少なく経済水準の高い国々や、ポーランド、ハンガリーなど東欧諸国が上位に並んでいます。その中で、ドイツがプラス4.0%で純輸出が多い方になっています。ドイツはGDPの4%を純輸出によって獲得していることになります。
一方で日本はマイナス1.4%となっており、主要先進国ではアメリカやフランスに次いで輸入が超過している国ということになります。工業国として知られるドイツと日本で、純輸出の傾向が対照的というのも印象深いですね。
もちろん、ドイツは欧州内での経済の結び付きが強く、経済水準からすると割安なユーロという通貨の恩恵を受けていると指摘されることもあります。
日本は資源が乏しいため、エネルギーなどの資源を他国から輸入し、代わりに製品を輸出することで成り立つ加工貿易で成り立っている国だといわれることも多いです。実際に、自動車や機械/装置、電子機器などは今なお輸出の多い製品となっています。
一方で、日本はプラザ合意以降急激に円高となり、他国から見れば相対的に割高な国となっていました。日本の製品は他国から見れば割高で、国内生産からの輸出よりも、現地生産化による生産移転を進める動きが強くありました。
国際的な物価水準の比較となる価格水準指数(PLI: Price Level Index)を計算してみると、日本はかつてアメリカの2倍近くに達していました(図5)。
ただ、国内物価や円安の進行とともに価格水準指数も低下傾向が続いています。特に2022年以降は円安が急激に進んだため、価格水準指数も大きく低下しており、2024年は63.2%と米国の6割程度の物価水準となっています。
日本はかつてのように国際的に物価が高い国から、物価が割安な国へと立ち位置を大きく変化させていることになります。従来は、相対的に物価が高かったことから輸出が抑制され、海外現地生産化が進んでいたことを考えると、今の状況はむしろ輸出を増やしていける環境へと変化してきたことになります。
日本にとって貿易の面で大きな転換点となっているまさに今この瞬間に、最大貿易相手国である米国との関税問題で揺れ動いていることになります。
今後、貿易に関する外部環境が変化するなか、輸出をうまく伸ばしていけるかどうかも、日本経済にとっての重要な取り組みになっていくのではないでしょうか。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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