生産性2倍以上、PLM活用で工程全てを革新に導いた金型メーカーの挑戦ものづくり太郎のPLM講座(4)(3/4 ページ)

» 2025年09月17日 08時00分 公開

PLMを活用した協和工業の金型製造工程

 このように、一般的な金型製造では、データと図面の行き来をしているために、多くのムダやムラが存在している。しかし協和工業はそうではない。協和工業は昔から、一括でBOM情報を管理する仕組みを構築し、ムダやムラのない金型製作に取り組んでいるためだ。

 協和工業では、Cimatron(CAD/CAMソフト)を軸にPLMの運用を進めており、E-BOM(金型を設計する際の部品情報)を構成する際にあらゆる加工、部品データを定義している。顧客先から提供された製品CADモデルから金型のCADモデルを構築する際に、寸法や公差情報を確定すると同時に、精度による色分けと全ての加工工程を決定する。つまり、設計する際に製造プロセスも自ずと決定する形となっているのだ(BOPの自動生成)。さらに精度以外にも、設計時に以下のような情報を定義していく。

  • 各部品の型番
  • 寸法公差、幾何公差
  • 内製品か購入品
  • 材質
  • 熱処理やコーティング加工
photo 金型の3Dモデル[クリックで拡大] 出所:協和工業

 既に設計段階で加工工程が定義されていることから、あとはCADを取り込んだCAMソフト上で範囲選択によって対象加工物を一括で選択するだけで、加工パスが生成される(割り当てされる)のだ。穴についても同様で、範囲選択をするだけで全ての穴の加工パスが確定される。

 このすごさが伝わりづらいかもしれないので少し細かく説明すると、通常は加工の部位ごとに加工パスを設定していく必要がある。どのようなツールホルダを使用するのか、どのような切削工具を使用するのか、どのような切削速度にするのか、切削方法はどうするのかなどをそれぞれ設定していかなければならない。しかし、協和工業のようなやり方を取れば、面加工も穴加工もタップ加工も面取り加工なども、対象ワークをマウスで範囲選択することによって一瞬で終えられる。

photophoto 範囲選択をすると一瞬で全ての穴加工の加工パスが生成される[クリックで拡大] 出所:協和工業

 このようなことができるのは、CADモデルを設計、構築する際に、精緻にBOM情報(各部品の寸法情報や加工情報)を決めているためだ。

 CADモデルが確定されるDR段階においても、設計、製造現場、調達が一緒になって確認をするため、非常に多くの工数が必要になっているように見えるが、設計以降の作業が激減されるため、全体の工程を考えれば生産性は高まっている。さらに穴加工や部材情報なども標準化されており、使用するボルトやガイドポストなども自動で決まるため、設計段階で発注のリストも出来上がるといってよい。

ものづくり太郎のここがポイント!

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 独自性があり複雑な加工が求められる部分に関しては、加工パスを構築しなければならないが、それ以外の90%程度の作業は瞬時に終わる。2次元図面への転写や寸法指示、公差指定も都度では必要なく、工程間の伝達ロスやミスも全く発生しないのだ!

CimatronだからできるBOM管理

 多くのCAMソフトはBOMに対してここまで多くの情報を保持させることができず、CAMは単なる加工パスを生成するソフトウェアという位置付けだが、先述した通りCimatronにはさまざまなBOM情報を持たせることが可能だ。また、持たせる情報は任意に決めることができるなど、自由度が高い。

 最初の設計段階でBOMにさまざまな情報を持たせることによって、加工情報の付与漏れを防ぐことができるので加工漏れによる手戻りや、発注ミスなども激減した。また、加工のために2次元図面を起こすことが不要となり、本来であれば行う必要がない付帯作業も削減できるようになった。

 組み立て作業も、金型を組み立てる現場が3Dモデルを見ることによって、誰でも簡単に理解できるようになった。設計から製造、組み立てまで同じデータを利用することで、滞りや重複がないようにしている。これにより、生産性は2倍以上になったという。デジタル技術を生かした素晴らしい運用変革である。

photo 組み立て現場でも3D CADモデルを確認しながら作業を行う[クリックで拡大] 出所:筆者撮影

ものづくり太郎のひとこと言わせて!

なぜ日本はBOMを中心とした運用ができなかったのか?

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 ここ30年を見てもわれわれの生活は非常に便利になった。筆者は36歳だが、子供の頃はポケベルがまだ一般的に使われていた。ポケベルから、縦長の携帯電話、ガラケー、スマホなどへ進化しているのに、日本の多くの製造現場は旧来の運用を続けている。

 これだけ日常生活が変わっているのに、工場の運用方法に進化がないことにエンジニアであれば違和感を覚えるのが当然だ。しかし、平和ボケした工場の担当者は、目の前にある運用に疑問を抱かない。改善や運用方法の見直しなど本来のエンジニアの業務に取り組まず、単調な作業を繰り返すワーカーに成り下がってしまったのが日本の多くのエンジニアや経営者の実情だ。非常に情けない。思考停止し、既存のやり方にしがみつく担当者は恥を知った方がよい。

 本来であれば改革を推進するはずの担当者が自分自身が「意思決定をすることができない情けない人材」になっていることを理解していないのだ。合理的に考えれば一般的な技術トレンドがこれほど変化しているのに、20年も30年も同じ運用を繰り返していて問題が発生しないはずがないのだ。周りで誰がポケベルを使っているというのだろうか。

 担当者、責任者(ステークホルダー)が導入に対する効果の簡単な足し算、引き算もできず、意思決定も行わず、周りを巻き込む気概も失った惨憺(さんたん)たる日本の現場を多く見ると、日本の製造業を思う一担当者として非常なる無念な思いに駆られる。旧来のやり方に疑問を持たないステークホルダーは、さっさと目を覚ませ! 人が取れないと嘆く前に、現場の運用を見直すのだ! ポケベルを使う現場に誰が就職したいと思うのだ? 人間として、考える葦としての本来の使命や意義を思い出せ! このバカタレ!

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