ものづくり新聞 2021年と2023年の開催では、出展社の皆さんに当事者意識を持ってもらうため、あえて運営にも深く関わっていただいたと伺いました。そのような形を取った意図について、教えていただけますか。
原岡さん 第1回目の開催では、日本工芸産地協会が2017年の発足時に掲げた「産業観光が産地の未来を開く」というビジョンを基に、「そこを起点に、実際に工芸産地へ足を運んでもらうこと」をテーマとして実施しました。
2021年は53社が参加し、来場者は2万人に達しました。イベント自体は成功したという手応えを感じましたが、コンテンツやデザイン、オペレーションなど、万博に向けて取り組むべき課題も見つかりました(関連リンク:日本工芸産地博覧会2021)。
2回目は、その2年後となる2023年に開催し、出展社の数を増やすなど、内容にもさらに磨きをかけました。私たちは「万博に行きたい。そのために活動しているんです」という思いを各所で伝えていたところ、読売新聞さんと出会うことができました。このときの出会いが、今回の共催につながったのです。
2023年は60社が参加し、来場者は1万2500人に上りました。入場を有料にしたにもかかわらず、多くの方々にご来場いただきました。読売新聞さんとのパートナーシップも構築でき、2025年の万博開催に向けて、しっかりとした基礎が整ったという実感を持つことができました(関連リンク:日本工芸産地博覧会2023)。
2023年に作り上げた内容を、この大阪・関西万博に持ち込むという方針の下、2024年の1年間は議論を重ねてきました。そして、それを2025年に具現化したというのが、これまでのストーリーです。工芸と産地の新しい未来を切り開き、世界中の人々をつなぐ場になると信じて、ここまで突き進んできました。
ものづくり新聞 ある意味、今回の開催で1つのゴールを迎えたことになると思いますが、次の展開についてはこれから議論される予定でしょうか?
原岡さん もう決まっています。来年(2026年)は東京で開催し、その次は台湾、さらにその次は欧州のどこかで実施する予定です……と言いたいところですが、それは全て私の妄想です(笑)。
万博という場所が、世界への発信の場だと信じてここまで走ってきました。手前みそではありますが、とても良い空間ができたと思っています。多くの方からお褒めの言葉もいただきましたし、開催して本当に良かったと感じています。皆さんに貢献できたという実感もあります。
ただ、実際には来場者の9割が日本人でした。私は、ここで開催することで世界中の人に日本の工芸を知ってもらえると信じていたのですが、その点では少し物足りなさが残りました。
ものづくり新聞 なるほど。確かに、来場者は日本人が多いという印象を受けました。
原岡さん 今日(取材当日)もたくさんの方が来てくださって、皆さんとても良い表情で帰って行かれました。3日間を通して、出展社の皆さんもニコニコと本当に良い顔をされていました。朝9時から夜9時までの開催は、自分でも正直つらいのですが、それでも「充実しかない」と感じています。
日本で開催して、これだけ多くの日本人の方々に喜んでいただけたのですから、これを海外に持っていけば、外国の方々もきっと驚かれると思いますし、興味深く感じてもらえるはずです。日本の工芸産地に関心を持つ方も、きっといらっしゃると思います。「もっと世界の人に見てほしい」という思いが、この1カ月ほどでふつふつと湧き上がってきました。そして、設営が終わり、完成した様子を見たときに、「これは海外でも十分に通用する」と確信しました。
今回のイベントには、JALさんとJR西日本さんが協賛してくださいました。先日、JALのご担当者と日本工芸産地協会の能作さん、そして私の3人でお話しする機会があり、私が「これを海外に持って行きたいんです」とお伝えしたところ、「ぜひ実現してほしいです」と言ってくださいました。
ものづくり新聞 それはとても良い展開ですね!
原岡さん JALさんがそうおっしゃるのであれば、私としてもぜひ実現したいと思いますし、能作さんももともと海外展開に積極的な方です。あとは、今回参加してくださった産地の皆さんが、どのようにお考えになるかだと思います。
もし皆さんが、自分たち自身の意思で「これをもっと世界に発信したい!」と、自発的に熱意を持って語ってくださるのであれば、きっと実現できると思います。逆に、私たちだけが一方的に声を上げていても、それでは成立しないのではないかと感じています。そうした思いがなければ、前には進めません。それが、今の私の率直な心境です。
ものづくり新聞 とても興味深いお話ですね。それほど素晴らしい構想であれば、パンフレットにも書いておけばよかったのに……と思ってしまうほどです。
原岡さん それは、まさに「今」の心境ですからね(笑)。ただ、「これを海外へ持っていきたい」というのは、あくまで私の個人的な思いにすぎません。そして、この博覧会が掲げている最も大切なビジョンは、「工芸産地を旅の目的地にすること」なのです。
ものづくり新聞 それでタイトルが「手が語る、時を超える、旅へ」だったのですね。「旅って何だろう?」と気になっていたんです。
原岡さん はい。工芸産地を旅の目的地にしなければならないと考えています。例えば、岩手県の及源鋳造さんを訪れたいから、その場所を目指して旅をする――そういう方が今後どれだけ現れてくれるかが、今回の博覧会の“真価”だと思っています。旅のついでに工芸産地を訪れるのではなく、工芸産地そのものが目的地であるべきだと感じています。
私はカメラマンとともに、会期前の約1カ月間で今回出展している20の産地を全て回り、“職人たちの手”を紹介する映像を全て撮影してきました。
1カ月で20の産地を巡らなければならなかったため、ある程度まとめて訪問することにしました。東北を回った際には、秋田県大館市、岩手県奥州市、福島県会津若松市の3カ所を巡り、1泊2日で戻ってきました。普通に考えれば、なかなかそういった旅をされる方はいないと思います。
ものづくり新聞 本当にすごいですね! かなり驚きの行動力だと思います(笑)。
原岡さん 本当に大変でしたが、それ以上にとても面白かったです。途中、磐梯熱海温泉に宿泊しながら、「これは旅になるな、面白いな」と感じました。東北が3カ所、関東が2カ所、北陸が4カ所、和歌山が3カ所、そして奈良、大阪、島根、熊本、沖縄。20の工芸産地を8つのブロックに分けて、旅として提案することが、今の私の取り組みたいテーマです。
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