AUTOSARの周りで揺れ動くSDVとオープンソースの波AUTOSARを使いこなす(37)(2/3 ページ)

» 2025年06月30日 06時00分 公開
[櫻井剛MONOist]

欧州委員会からオープンソースへの全面的な転換を求める発言が

 初日のプログラムは、欧州委員会(European Commission)のMax Lemke博士(Head of Unit Internet of Things)の基調講演「European Automotive Action Plan:the digital vehicle innovation ecosystem」からスタートしました。

 European Automotive Action Plan(AAP)として、ソフトウェアにより実現され(Software-enabled)、またAI(人工知能)の支援を受けながら(AI powered)、つながる自律走行車(Connected and Autonomous vehicles)に関して、再度リーダーシップをとるためのアクションをとる、ということで、以下の4本の柱が提示されました。

  • デジタルビークル(Digital Vehicle):欧州のつながる自律走行車に関するアライアンスと、セキュリティ
  • 車両データ(Data):車両データ、機能、リソースそしてそこでの競争
  • バッテリー(Batteries):次世代バッテリー技術
  • 規制フレームワーク(Regulatory Framework):規制当局による国境の壁を越えたテストベッドや自律走行車に関する国際統一市場(Harmonized single market on AVs)

 特に、Chips JU, Apply AI - HE CI 4 and 5, CCAM, Telco edge cloud corridors(3Cs)およびクロスプログラムといったデジタルビークル分野に関しては、2025〜2027年に10億ユーロの投資が行われるとのことです。また、そこでのアライアンスにおいては、(欧州の)自動車メーカーやサプライヤーに対する自律的なドライブを求めつつも、Eclipse、AUTOSAR、COVESAなどの団体に対して「実現/実装エンジン(Implementation Engines)」としての働きを期待し、EUがそこでのファシリテーターの役割を務めるとのことです。

 そして、そこでの成功のための「Key Goals」として4つのキーワードが示されました。

  • 戦略的集中:Strategic Focus
  • スピード:Speed
  • スケール(規模というだけではなくテコの比率/費用対効果の意味が強いように感じました):Scale
  • オープン:Openness

 SDVに関しては、より具体的には「ハードウェア/ソフトウェア抽象化」「ミドルウェアおよびAPIフレームワーク」「自動化されたDevOpsツール」に関する投資が強化されていくとのことでした。

 そして、実現/実装エンジンとしては、従来のプロプライエタリなAUTOSARなどの実装ではなく、Eclipse S-CORE(Safe Open Vehicle Core)のようなオープンソースへの全面的な転換を求める発言も繰り返し飛び出しました。パネルディスカッションでは「OSSは使えるかどうかではなく、もはや不可避だ」との発言もあり、会場の一部が少々ざわつきました。なお、AUTOSARパートナー規約の既存の制約もあり、AUTOSARの成果物の全てをそのまま完全にオープン化できるわけではございませんが、一部をオープン利用できるような取り組み(例:AUTOSAR Associate Partner [Light])も始まっています。

 そして、AUTOSAR会員からの講演でも、前回の東京開催に比べ、明らかにOSSに触れるものの比率が増えていました。

 なお、COVESAやEclipse SDV、ASAMなど各団体の講演については、ぜひAUTOSAR & JASPAR Japan Dayにご参加いただきたいのでここではあえて触れません。しかし、Eclipse S-COREなど、今後の動向に注目すべきものはございます。ぜひAUTOSAR & JASPAR Japan Dayにご参加いただき、SDVを取り巻く状況の大きな変化に触れていただければと思います。

 なお、複数の講演で「オープンソースはタダではない」と強調されていました。貢献なしにタダ乗り行為やそれをする関係者(free riding/free riders)への風当たりの強さは、以前から一部にはありましたが、今後一層強くなるであろうことも垣間見えています。「AUTOSARなどの団体は提供者であり、それを使う自分たちは客だ」という姿勢も同様な見られ方をするであろうことについても注意が必要と考えます。

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