エースのデジタル化は、2007年の西村氏社長就任後から本格的な変革期を迎えました。IT系企業でキャリアを積んだ親戚からの専門的なアドバイスを受け、まずサーバの導入と社内資料共有システムの構築という基盤整備からスタートしました。この初期の取り組みで「業務効率の向上と情報共有の円滑化という具体的な効果が実感でき、社内でデジタル化への理解と支持が広がっていった」と西村氏は振り返ります。
その後、西村氏が陣頭指揮を執り、特に総務部メンバーを計画的に巻き込みながらシステム導入を段階的に推進し、持続可能な運用体制を構築することに成功しました。また、総務部の既存の業務フローや作業習慣を十分に考慮してシステムを導入したことで、導入後も総務部が主体となって業務ルールを確実に実践、定着させることができています。
2010年頃には事業の中核を支える生産管理システムを初めて導入し、多数の協力会社との複雑な工程管理の効率化に着手しました。同時に、高度な設計/加工を可能にするCAD/CAMシステムを導入し、最新技術を活用した先進的な生産体制を確立しました。
生産管理システムは、初代システムの導入後も使いやすさと効率性を追求して継続的に改善を検討していました。しかし、業務中断のリスクや多額の導入費用が障壁となり、なかなか移行に踏み切れませんでした。転機となったのは2021年の大田区製造業者連携組織I-OTAへの参加です。この活動を通じてテクノアとの接点が生まれました。そして、多くの同規模の製造業が同社の「TECHS-BK」を導入しており、高い満足度を持っているという実例を知り、システム移行に踏み切ったといいます。
生産管理システムの移行に踏み切れたのは、IT補助金による資金面でのサポートも後押しとなりましたが、図面管理の課題が切実だったことも要因として大きくありました。年々増加する紙の技術図面で物理的な保管スペースが逼迫し、書棚の増設も限界に達していました。システム移行を行った現在では、全ての図面をデジタルデータとしてシステムで一元管理できるようになりました。それにより、保管場所の問題を解消し、瞬時の図面検索や複数拠点からのアクセスも可能になり、業務効率が劇的に向上しました。
また、積極的な営業展開を重視するエースにとって、デジタルマーケティングの強化は必須の課題でした。企業Webサイトの全面的な構築と改修、SEO施策の強化により、検索エンジンで上位に表示されるように手を打ちました。その結果、質の高い見込み客が安定的に流入し、新規の営業機会が着実に拡大しました。
さらに、デジタル化は主要な事業運営業務だけでなく、バックオフィス業務全般にも展開しています。経理業務では税理士推奨の「財務応援」システムを導入し、売上高、仕入れ、経費の包括的なデータ管理を実現しています。社内コミュニケーションでは、デジタルツールを活用しながらも対面での対話も重視しています。具体的には、情報共有のためのカレンダーシステムを導入しつつ、対面での朝礼も設けて円滑なコミュニケーションを促進し、日中の業務連絡にはLINEグループを活用するなど、デジタルと対面のコミュニケーションを効果的に組み合わせています。
デジタル化の推進にあたり、エースでは複数の分野にわたるシステム投資を実施してきました。その主な内訳は以下の通りです。
これらの投資については、IT導入補助金を活用(約700万円)することで、実質的な負担を大きく軽減することができました。補助金の存在は中小企業にとって非常に大きな推進力となっており、特にエースのような「継続的な業務改善を志向する企業」にとっては、現実的な選択肢として活用価値の高い制度でした。
この投資によって得られた効果は多岐にわたりますが、特筆すべきは図面管理と営業対応力の向上です。例えば、大手企業から「過去に納品した図面が手元にない」との連絡があった際、TECHS-BKを活用して即座に該当図面を検索し、数分でPDFを送付することができるようになりました。このスピード対応が評価され、新たな案件の受注につながったこともあるそうです。
また、営業面でも自社Webサイトを再構築し、SEO対策により検索エンジン上位表示を実現。「町工場」としての魅力を伝えるブランディング要素も強化し、新規顧客の問い合わせ数が増加しました。今では直接来社せずとも、Webサイトから図面を送って案件相談をする顧客も少なくないとのことです。
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