製品開発とシミュレーションでは、ブッシュ氏は、われわれの戦略は「現実世界とデジタル世界の融合だ」と述べ、造船企業Hyundai Heavy Industries(HHI)とのコラボレーションによるデジタル造船環境の例などを挙げた。これはNVIDIAとの協業によってHHIの水素を動力源とする船舶の精密なデジタルツインを構築。1度のクリックで、AIが船舶をフォトリアリスティックな環境に配置。700万個以上の部品を1つ1つ見ることも可能となったもの。同氏は「これらのレンダリングの驚異的な品質と速度は、AIを使用することでのみ実現できる」と説明した。また、2025年3月26日、産業用シミュレーションを手掛けるAltair Engineeringを買収完了を発表したことにも触れ、「さらに多くのシミュレーションとAI製品を追加する予定だ」とも語った。
製造現場では、アウディが生産ラインに、シーメンスの仮想PLC「SIMATIC S7-1500V」を導入した例を挙げた。同氏は「仮想PLCによって、データを簡単に入手し、集中的に分析できるようになったことで、生産現場へのAI導入の扉を開いた。Audiのチームは現在、生産データに基づいて独自のAIアプリを構築している」と説明した。
この他、シーメンスの産業向け生成AI搭載アシスタントである「Industrial Copilots」にも触れたうえで、「実際に工場を24時間365日稼働させる場合、より重要なアプリケーションには、産業グレードのAIモデルが必要だ。つまり、ハルシネーションを起こさない、高品質のデータで信頼性が高く強化されたモデルであり、われわれはパートナーとともに、それらを構築している。われわれのノウハウとパートナーから得たものを含めた膨大な産業データを使用して産業基盤モデルを開発している」とも明かした。
「産業基盤モデルは、現在の大規模モデルは、到達できない領域にあなたを連れていくだろう。このモデルはあらゆる種類のデータを取り込み、その根拠を人間が理解できる方法で説明できる。またわれわれは産業用AIエージェントにも取り組んでいる。複数の複雑なタスクを同時に実行できるエージェントだ」(同氏)
ブッシュ氏は「LLMや生成AIの可能性を最大限に引き出すには何が必要だろうか? ここにいるほとんどの人は、この点で大きなアドバンテージを持っている。これはドイツの産業にとって大きなチャンスだ。われわれには専門分野のノウハウがあり、産業を理解し、データを持っている。AI、専門分野のノウハウ、そしてデータは勝利の組み合わせだ」と会場に訴えていた。
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