新商品は、リチウムイオン電池を使うモバイルバッテリーが原因となる火災の増加を課題と捉え、より安全なモバイルバッテリーを市場に投入したいという責任もあって開発された。リチウムイオン電池に関連する火災はこの10年で増加傾向にあり、製品別にみるとモバイルバッテリーが最も多い。また、リチウムイオン電池を内蔵した製品がごみに混入され、ごみ収集車やごみ処理場で他のごみと一緒に圧縮された際に火災が発生することも問題になっている。
エレコムは2022年にリン酸鉄リチウムイオン電池を使ったモバイルバッテリーを製品化し、タブレット端末の活用が進む学校向けにも展開している。リン酸鉄リチウムは過充電や高温での分解によって酸素放出が起こりにくいため、異常発熱や発火に対する安全性が高いといわれている。また、エレコムは将来的には全固体電池のモバイルバッテリーを市場投入することで、安全に貢献したい考えだ。
ナトリウムイオン電池は、コバルトやリチウムといったレアメタルを使用しないことによる環境負荷の軽減や、サイクル寿命の長さ、安全性の高さ、使用可能な温度範囲の広さなどがリチウムイオン電池やリン酸鉄リチウムイオン電池と比べたメリットだ。だが、モバイルバッテリーとしては重量や体積、価格が大きく劣る。
容量1万mAhのリチウムイオン電池のモバイルバッテリーが180〜190gなのに対し、新商品の重量は350gだ。ちなみにiPhone16の重量が170g、iPhone16 Pro Maxでも227gなので、スマートフォン本体よりも重い。体積は容量1万mAhのリチウムイオン電池のモバイルバッテリーと比べて2倍以上ある。
価格も弱点だ。容量1万mAhのリチウムイオン電池のモバイルバッテリーが大手メーカーの安価なもので3000円前後、安さを重視すれば1000円前後でも販売されている。エレコムの新商品は、ナトリウムイオン電池の流通が少ないこともあって、価格は1万円近い。
リン酸鉄リチウムイオン電池を使ったモバイルバッテリーも、エネルギー密度の低さや出力の低さがネックになり、リチウムイオン電池のモバイルバッテリーほどは普及していない。「リチウムイオン電池のモバイルバッテリーの事故は報道で見聞きする機会も増えているが、まだ自分事じゃない消費者が多い。安いもの、軽いものが選ばれる傾向も強いが、店頭やWebサイトでエレコムの品質や安全の取り組みを引き続き発信していきたい」(エレコムの担当者)。
大きく重い新商品だが、これは開発のタイミングも影響している。「開発に2年ほどかかっていて、その間にもナトリウムイオン電池が進化している。今開発を始めれば、重さや体積はもう少し抑えられるだろう。ナトリウムイオン電池の製造元は車載用でどんどん進化させているので、その恩恵を民生用でも広げていきたい」(エレコム 商品開発部 コンダクションデバイス課の田邉明寛氏)。
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