効率的かつ短段階でチオフェン縮環ナノベルトの合成に成功:研究開発の最前線
理化学研究所らは、芳香族ナノベルトに縮環チオフェンを組み込んだチオフェン縮環ナノベルトを効率的かつ短段階で合成することに成功した。光電子デバイスや極性材料などへの応用が期待される。
理化学研究所(理研)は2025年2月3日、名古屋大学、九州大学との共同研究で、芳香族ナノベルトに縮環チオフェンを組み込んだチオフェン縮環ナノベルト(チオフェンベルト)の合成に成功したと発表した。
ベンゼン環とチオフェン環が縮環する構成ユニット数が8個もしくは9個のコーン型形状チオフェンベルトを作製。具体的には、テトラフルオロビフェニルを出発物質に、ニッケル(Ni)と金(Au)錯体を触媒として、前駆体となる「部分フッ素化シクロパラフェニレン(F16[8]CPP、F18[9]CPP)」を合成。このナノリングの炭素−フッ素結合に対して硫黄架橋反応を施すことで、効率的かつ短段階でチオフェンベルトを作製した。
チオフェンベルトのひずみエネルギーと合成。(A)計算科学的解析でシミュレーションしたチオフェンベルトにおける「ひずみエネルギー」と構造。構成ユニット数(n)により、コーン型、フラット型、サドル型と異なる形状が予測され、今回はコーン型を合成した。ユニット数(n)は「[n]チオフェンベルト」のように表記される。(B)チオフェンベルトの合成スキーム 出所:理化学研究所
合成したチオフェンベルトは結晶中で同じ向きに柱状に積層する構造で、双極子モーメントを有する。分光学測定により、光の吸収や蛍光、−196℃の低温下で長寿命のリン光を発光する性質が判明した。
チオフェンベルトの構造的特徴。(A)X線結晶構造解析によって明らかになったチオフェンベルトの構造。炭素原子(灰色)、硫黄原子(黄色)、水素原子(白色)で表す。(B)計算科学によって明らかになったチオフェンベルトの静電ポテンシャルマップと双極子モーメント。「デバイ」は双極子モーメントの単位。赤色が濃い部分ほどマイナスの電荷が集まっており、分子の上下で赤色と青色に分極している。(C)チオフェンベルトの結晶中における分子配列。全てのチオフェンベルトが同じ向きにそろって柱状に配列しており、結晶自体が極性を持つ[クリックで拡大] 出所:理化学研究所
また、金属表面でのチオフェンベルトの配列を調べたところ、金と銅の表面では異なる配列パターンになることが分かった。
チオフェンベルトの金属表面での配列とシミュレーションによる配列イメージ。(A)走査型トンネル顕微鏡による金属表面でのチオフェンベルトの配列。ドーナツのように見えるのがチオフェンベルト。金表面では段差に1次元(線)状に配列し、銅表面では2次元状に広がって並んでいる。(B)計算科学によってシミュレートされたチオフェンベルトの配列イメージ。炭素原子(灰色)、硫黄原子(黄色)と水素原子(白色)から成るチオフェンベルトは、金や銅の表面上にあり(左)、黒っぽい輪(中)や白い輪(右)に見える。また、金表面では1次元かつ硫黄を下向きにして並び、銅表面では2次元かつ硫黄を上向きにして分子が配列していることが分かる[クリックで拡大] 出所:理化学研究所
芳香族ナノベルトは、有機エレクトロニクスや超分子化学などの分野で注目されている。この芳香族ナノベルトと、p型有機半導体や分子性導体、発光材料の基本骨格として広く用いられる縮環チオフェンを融合した今回の研究成果は、光電子デバイスや極性材料などへの応用が期待される。
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