矢野経済研究所は、PAN系炭素繊維市場調査の結果を発表した。スポーツやレジャー向けの需要が安定し、航空機用途の需要も拡大傾向にあることから、2024年の同繊維出荷量を前年比7.8%増の10万4400トンと予測する。
矢野経済研究所は2024年12月2日、PAN系炭素繊維市場に関する調査結果を発表した。調査は日本、韓国、台湾、アメリカ、欧州を対象とし、2024年の同市場は前年比7.8%増の10万4400トン(t)と見込む。
2023年の同市場は、風力発電装置のブレード(翼)用途で、炭素繊維を強化材に使用したCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)の需要が減退した。加えて、新型コロナウイルス感染症の拡大による巣ごもり需要で、2022年までゴルフシャフトや釣り竿などの供給が過剰傾向にあったが、その反動で2023年は大幅減少となった。
2024年には在庫調整も終了し、CFRPはスポーツやレジャー向けの需要が安定したこと、航空機用途の需要が拡大傾向にあることから、PAN系炭素繊維の出荷量も増加に転じると予測する。
アプリケーション別では、風力発電ブレード用途の需要回復にはしばらく時間を要すると推測されるが、航空機やドローン、ゴルフシャフト、釣り竿など向けを中心に市場は緩やかに伸長すると予測する。また、水素貯蔵用の圧力容器や風力発電ブレード用途については、水素社会や再生可能エネルギーの進展により、2028年から2030年以降に順次使用量が増加し、設備導入も進むと見込まれる。
さらに、日本ではより一層、少子高齢化と人口減少が進むことから、スマートファクトリーや物流の効率化といった搬送フローの再構築が求められる。こういった状況を受けて、さまざまな産業機器の軽量化や長寿命化、省人化が進み、産業機器用途のCFRPの需要が拡大していくと考えられる。
同社は、2023年から2030年までのPAN系炭素繊維市場について、年平均成長率4.9%で着実に成長し、2030年の同市場規模(メーカー出荷量ベース)は13万5585tに達すると予測する。用途は主に、スポーツ、レジャー、航空機、風力発電、産業機器、圧力容器、ドローンや防衛関連となる。
炭素繊維市場は、1970年代から国内メーカー3社がリードしてきた。その後、アメリカや欧州、韓国、台湾などの炭素繊維メーカーが参入したが、国内メーカーは技術開発力を生かし、高性能な製品を開発して市場のトップシェアを獲得してきた。
近年、中国政府が炭素繊維を新たな高機能材料と定めたことから、多くの中国メーカーが台頭してきており、国内メーカーも危機感を抱いている。中国メーカーは当面、中国国内での風力発電が主な用途となるため、国内メーカーはグレードの高い炭素繊維の開発を継続して、欧米、アジアをはじめ、その他の地域での市場拡大を図ることが重要になってくる。
短期的には、防衛関連のドローン用途、航空機向け需要の取り込みが主要戦略となる。中長期的には、圧力容器や風力発電など総合的に広く需要を獲得することで、市場は緩やかな成長から着実な成長へと切り替わる可能性があると見ている。
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