米国の医療・公衆衛生セクターを所管するHHSの状況について、GAOは、以下のように説明している。
HHS傘下のASPRやFDAは、IoT医療機器に対するリスク管理活動を継続しているが、GAOは、HHSとしてIoTやOTに特化したセクター全体の包括的なリスク評価を実施していない点を課題として挙げた。その結果HHSは、拡大/進化する脅威に対処するために必要な追加的セキュリティ保護策が何かを把握していなかったと指摘している。
このような課題を踏まえてGAOは、HHSに対し以下のような勧告を行っている。
HHS傘下のASPRは、GAOの勧告に対する改善策の一環として、2024年1月24日、「医療・公衆衛生セクター固有のサイバーセキュリティパフォーマンス目標(HPH CPGs)」(関連情報)を公表している。この文書は、医療組織が影響度の高いサイバーセキュリティプラクティスの実装を優先順位付けする際に役立つように、サイバー攻撃からの医療セクター保護、イベント発生時の対応改善、残存リスクの最小化のために設計されたものである。HPH CPGsは、表2に示す通り、「不可欠な目標(Essential Goals)」と「強化された目標(Enhanced Goals)」の2つのカテゴリーを設定した階層アプローチが特徴となっている。
医療機器/デジタルヘルス関連企業は、「ベンダー/サプライヤーのサイバーセキュリティ要求事項」、「サードパーティーの脆弱性情報開示」など、サプライチェーンセキュリティに関わる目標が、医療・公衆衛生セクターにおけるHHSのサイバーセキュリティ政策の柱になっている点に注意する必要がある。これには、本連載第82回で取り上げたSBOM(ソフトウェア部品表)の有効活用策も関係してくる。GAO報告書は、エネルギーや運輸システムも取り上げているので、医療・公衆衛生以外のセクターにおける重要インフラのセキュリティ管理策との比較にも活用できる。
その後GAOは、2024年1月30日、「重要インフラストラクチャの保護:政府機関はランサムウェアのプラクティスの監視を強化し連邦政府の支援を評価する必要がある」(関連情報)と題する報告書を公表している。このランサムウェア報告書は、以下の3点を目的としている。
GAOのランサムウェア報告書では、米国の重要インフラ16セクターのうち、重要製造セクター(所管:国土安全保障省)、エネルギーセクター(所管:エネルギー省)、医療・公衆衛生セクター(所管:HHS)、運輸システムセクター(所管:国土安全保障省、運輸省)の4つを取り上げて調査、分析を行っている。
図2は、医療・公衆衛生セクターにおけるランサムウェア攻撃の影響をまとめたものである。
ランサムウェア攻撃対策に関連して、GAOはHHSに対し以下のような勧告を行っている。
HHSでは、このランサムウェア報告書公表直前の2024年1月18日、傘下の情報セキュリティ室と保健医療セクターサイバーセキュリティ調整センター(HC3)が、「ランサムウェアと医療」(関連情報、PDF)を公表して注意喚起するなど、医療・公衆衛生セクター向けのランサムウェア攻撃対策支援活動を継続的に行ってきた。
これに対してGAOは、HHS組織の枠を越えた連携/調整機能を強化し、定期的な効果測定手法を確立するよう勧告している。この流れは、本連載第65回で取り上げた「クロスエージェンシー」(関連情報)の考え方と合い通じるところがある。現在、第2次トランプ政権移行チーム(関連情報)は、イーロン・マスク氏とビベック・ラマスワミ氏が主導する政府効率化省創設計画を発表するなど、非効率的な縦割行政組織の改革を標榜しており、今後のHHSの改善策が注目される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.