「設備頼りのビジネス」から転換を! 固定資産のデータ分析で見えることイチから分かる! 楽しく学ぶ経済の話(12)(4/5 ページ)

» 2024年09月24日 05時30分 公開

固定資産を生産性向上に生かせていない?

日本の企業は固定資産を多く蓄積しているわけですから、事業でも優位性の高い状態が続いたといえるのではないでしょうか?


本来ならばそのはずですね。大切なのは、この蓄積された固定資産をうまくフロー面で活用できていないということです。次に、生産性についての統計データをご紹介しましょう。


図10:労働時間あたりGDP 図10:労働時間あたりGDP[クリックして拡大] 出所:OECDのデータより筆者作成

上のグラフは、国内総生産(付加価値の総額)を総労働時間で割った労働生産性の比較です。


よく見る傾向のグラフですね。日本は1990年代半ばにかなり高い水準に達していますが、その後は横ばい傾向で、近年ではイタリアを下回り、G7中最下位です。韓国との差もずいぶんと縮んでいますね。1995年のピーク時でも、米国は超えていますが、ドイツやフランスと同じくらいで、圧倒的というほどではありません。


固定資産のグラフと見比べてみてください。当時、日本は固定資産では圧倒的な水準に達していたわけですし、現在も高めの水準を維持しています。


固定資産は国民全体の生産性を向上させるものでもあるはずですが、残念ながら日本ではその優位性を生かせていないということになりますね。特に近年では、他国との差が大きく開いています。


確かに……。今や日本は米国の半分近くです。ドイツやフランスとも大きく違いますね。宝の持ち腐れのような状況だったともいえそうです。


はい、もちろんこの間に各国の状況は大きく変化しています。米国やフランス、英国は公共的、専門的、業務支援的な産業が大きく増えています。これらの産業は、工業よりもむしろ生産性の低い産業です。それでも全体としては、生産性がここまで向上しているわけです。


一方、日本は比較的生産性の高い工業が、縮小しながらも、まだ最大産業です。日本よりも工業の盛んなドイツとは大きな差がついていますね。


そうですね、特にドイツ、フランス、英国は平均労働時間が日本よりもかなり短いこともあり、時間あたりの生産性が高いです。固定資産に寄らず、それぞれの得意分野で付加価値を稼げるように変化しているのかもしれません。


平均給与の推移を見てみる

最後に私たち労働者に最も身近な、平均給与を紹介しておきましょう。


図11:主要国の平均給与の推移 図11:主要国の平均給与の推移[クリックして拡大] 出所:OECDのデータより筆者作成

日本の平均給与はやはり1990年代に急激に高まって、その後横ばい傾向です。最近では、主要国でも下の方です。米国はおろか、英国やドイツとも大きく差がついています。


日本の労働者の平均給与は1997年をピークにして目減りしてしまっていますね。2010年頃から増加傾向ではありますが、ピーク値をまだ超えられていない状況です。


それは、労働者数が増えたとみられる高齢者や女性の賃金が相対的に低いからでしょうか?


もちろん、その影響もあるでしょうね。ただ、一方で男性労働者の平均給与が各世代で目減りしてしまっているという事実もあります。


図12:主要国における男性の平均給与推移(1年勤続者) 図12:主要国における男性の平均給与推移(1年勤続者)[クリックして拡大] 出所:国税庁「民間給与実態統計調査」のデータより筆者作成

あ、本当だ!どの世代も、1997年をピークにして減少し、2010年以降は上昇傾向にありますがピーク値を上回っていない状況です。


この平均給与の動きはこれまで見てきたさまざまな経済指標の推移とも符合していて、構造的な要因が大きいことが分かります。私たちのお給料は付加価値の分配ですので、生産性と密接に関わりがあります。そして、その生産性は本来投資と関係が深いわけです。


これまで見てきた経済の構造を踏まえるならば、投資により生産性が向上し、働く人のお給料が増え、再分配も増えて、消費や投資がさらに増える、という循環が生まれるはずです。


しかし日本はバブル期/ポストバブル期で過剰な投資をしてしまい、借入がその分大きく膨らんでしまった。そのため、さらなる投資余力がなかったともいえそうですね。


一方で、高い水準の固定資産を十分に生かしきれず、結果的に労働者の価値を上げられずにいます。


おっしゃる通りです。結果的に、企業は大きな借入と固定資産を抱えたにもかかわらず、生産性や給与の向上がないまま失われた〇〇年といわれる停滞期間を過ごしてきたことになります。


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