本連載では、AM(Additive Manufacturing)における品質保証と、その方法を標準化した国際規格ISO/ASTM 52920について解説する。今回は、ISO/ASTM 52920の適用範囲について紹介する。
品質保証は製造業において重要な要素です。近年、Additive Manufacturing(AM、3Dプリンティング技術)の普及が進み、量産への活用が始まったことにより、AMにおいても品質保証の重要性が高まっています。
AMは従来の製造プロセスとは異なる方法で製品を生産します。その結果、品質保証のアプローチも従来製法と異なり、新たな課題に直面しています。本連載では、AMにおける品質保証と、その方法を標準化した国際規格ISO/ASTM 52920について解説していきます。
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※執筆にあたり参照しているISO/ASTM 52920は、執筆時点での現行版であるISO/ASTM 52920:2023です。
連載トピック
まず、ISO/ASTM 52920(以下、52920といいます)について振り返ってみましょう。
今回は、52920が(AM製造や品質保証業務の)どの辺りについて規定しているのか、という「52920の適用範囲」を見ていきましょう。
52920の規定の適用範囲は、おおまかにいうと「AMの」「品質保証に関わるところ全部」ということになります。では「AMの」とは具体的にどんなAMの何についてでしょうか。
それは、52920の「箇条1の適用範囲(1 Scope)」に規定されています。以下に日本語で一部を要約します。
上記の1つ目にある「AM技術」というのは3Dプリンタの種類、と考えて大丈夫です。樹脂をAMで造形するときにも、フィラメントを溶かしながら積み上げる方式や、液体の樹脂を硬化させながら造形する方式など、さまざまなAM技術が使われています。
金属でも、粉体材料を敷き詰めたところにレーザーや電子ビームを照射して固める方式や、ノズルから粉体やワイヤを供給しつつ固めていく方式など、たくさんの技術方式が実用化されています。
どんなAMか、という点は2つ目に書かれています。「使用される材料にも技術にも依存しない」のですから、AMなら何でもこの規格を参照してOKということになります。
現在はいろいろな材料がAMで使われています。種別で言うと、樹脂、金属などがポピュラーですね。みなさんが使っている材料が何であれ、AM製造で品質保証をしようというときにはこの規格書を活用できます。
3つ目には「ISO/ASTM 52900に定義してあるAM技術に適用される」とあります。ISO/ASTM 52900は、AMの用語の定義などを定めた規格です。AMの技術には呼び方が定まっていないものが多くあり、この規格では統一した呼び名を定義しています。
例えば、金属のパウダー、なかでも64チタン(Ti6Al4V)を敷き詰め、レーザーで固める方式は、PBF-LB/M/Ti6Al4V(Powder Bed Fusion, using a Laser Beam, in a Metallic material, more specifically Ti6Al4)と標記することにしましょう、というような分類方法や呼び名が定義されています。
そして4つ目の「AMプロセスや」「品質関連の」「活動」というのが、AMの品質保証に関わるところ、の意味になります。そこで、この場合のAMプロセスや品質関連の活動を具体的に表しているのが「4. AM関連プロセスの概要(4 Overview of AM related processes)」の「図1 AM製造サイト内のAM関連プロセスの概要(Figure 1 - Overview of AM relevant processes in an AM production site)」です。
下の図1は、52920の図1をもとに日本語にしたものです。まずは、この図が大きく2つのパートから構成されていることを確認してください。
次ページでは、図1を分解して見ていきましょう。
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