現場改善活動は、レベルの高い現場管理を追求する方向に行くことが多く、実際にこの活動によって顧客満足度が本当に向上しているのかを疑問に感じることも多々あります。
例えば、成型工程でロット生産をしないと効率化ができないにもかかわらず、できるだけ後工程に対して品ぞろえを良くしておきたいので、ロットサイズをできる限り小さくして小まめに段替えをすることで平準化生産するように改善を行うというケースがありました。
ロット生産を行う素材加工の工程では歩留まりの確保が難しく、例えば1000個作るといっても不良が必ず発生するのでぴったりの数を生産できないケースが多く発生します。しかも、小まめに段替えをすると製造条件が安定しないので余計に不良が発生する傾向にあります。一見平準化して品ぞろえが良くなれば顧客満足度が向上すると思っていても、顧客に必要な数をうまく供給できず、結果的に迷惑を掛けてしまいます。
このようなことについても、IoTで現場の状況が見える化されれば、本当に顧客満足度が向上する方向に向かっているかを経営者が自ら判断できます。現場改善を行っている管理者の「高度な管理手法で改善している」とう抽象的な言葉に惑わされず、現場の実態を数値で定量的に確認し、現地現物を見て正しい判断をしていくことが重要なのです。
IoT導入の推進で悩んでいる会社で意外と多いのが「そもそも十分な仕事量がない」ということです。生産性や設備稼働率を上げたいと話していても、実際は仕事量が十分になく、負荷が定時割れしているといったケースです。
これではIoTで現場の状況を精緻に見える化しても会社の業績は上がりません。こんなことはもちろん分かっているのではないかと言う方が大半だと思いますが、現場は分かっていても経営者は分かっていないことが多いのです。
IoT化を進める際にはまず、本当に現場の仕事量は確保できているのか事前に調査をすることをお勧めします。ただ現場を見ているだけでは精緻な状況は確保できませんので、出来高、稼働率だけを簡易な機器を使って設備から収集して検証するだけでも一定以上の精度で調査を行えます。その結果を見て、仕事量が十分にないことが問題だと理解できた場合は、IoT導入と並行して経営者自らが仕事量の確保に奔走するべきでしょう。
その姿を見れば社員の意識も変わります。とはいえ、十分な仕事量を確保できてからIoT化を図っていては出遅れるので、並行してIoT化を推進すれば自然に社員はこの活動に前向きになります。
最後になりますが、最近は気温上昇による熱中症対策やゲリラ豪雨の多発による水害対策が急務になってきました。製造業は昭和の時代から同じ工場で生産を継続していることが多く、最近の気象の急激な変化に十分に対応できていません。すぐに工場を再建することはできませんので、応急処理や暫定対応を行う必要があります。現場はこの対策を経営者自ら実施することを望んでいます。こういった変化にも敏感に対応することが経営者には求められますのでぜひとも社員の先頭に立って実行していただきたいです。
次回は「IoT導入による製造工程管理の強化」について具体的に解説します。
株式会社アムイ 代表取締役
山田 浩貢(やまだ ひろつぐ)
NTTデータ東海にて1990年代前半より製造業における生産管理パッケージシステムの企画開発・ユーザー適用および大手自動車部品メーカーを中心とした生産系業務改革、
原価企画・原価管理システム構築のプロジェクトマネージメントに従事。2013年に株式会社アムイを設立し大手から中堅中小製造業の業務改革、業務改善に伴うIT推進コンサルティングを手掛けている。「現場目線でのものづくり強化と経営効率向上にITを生かす」活動を展開中。
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