田口 もう一点お伺いしたいのは、「味」の観点です。御社にとって、おいしさは品質に直結する大事な点だと思いますが、いろいろな装置を開発し自動化などで工程が変わることで、品質はどのように担保しているのでしょうか。
塚本 例えば、既にある商品の製造を自動化に切り替える際は、同じ品質であることをしっかり確認してから導入しています。
基本的には営業担当が最終決定をするのですが、当社には「味覚審査員」という社内制度があり、味の評価はその資格を持った社内の人間が行っています。
もちろん機械的に味を測ることもある程度は可能ですが、人間は視覚や匂い、それこそ過去の記憶や体調など、いろいろなものの影響を受けておいしさを感じています。そのため、主観を持った人の舌でもしっかりと評価をするという意味を込めて、こうした制度を取り入れています。
味覚審査員になるためには試験に合格する必要があり、例えば、6割の人が判断できるレベルで5つの味つけ(甘味・塩味・酸味・苦味・うま味)をした水とダミーの真水3個の中から、甘味はどれか、苦味はどれかを当てる五味検査や、塩味など苦味以外の4味の濃淡を見極める濃度差の検査があります。
最終的に塩味だと0.03%の違いまで見極めないと合格できない試験です。新入社員にもやってもらうのですが、ほぼ全員合格できないですね。
また、一度合格しても、5年後にもう一度試験を受けないと資格を更新できません。商品のリニューアルや新商品の開発、他社との比較なども含め、社内でこの資格を持った味覚が分かる人が判断に携わる仕組みになっています。まだまだ先の話ですが、官能評価のデータ化といった取り組みもできれば面白いかなと考えております。
田口 改めて、ご担当の領域に関する今後の戦略や展望について、お聞かせいただけますか。
塚本 まずは、先ほどお伝えしたスマートファクトリーの3つの層をいかに実現していくか、ここが重要だと思っています。一部は実装が始まっていますが、全体としてはまだまだなので、これを着実に進めていきたいですね。
現在は、生産現場のデータを集めるステップまでは進んでいて、おそらくどこの食品メーカーさんも、そのデータをどうやって分析して活用するかというステップに取り組んでいる段階だと思います。それができると、さらに自動化、自立化という流れが、皆さんが思い描いているステップなのではないでしょうか。
田口 鶏肉の一部を除去するAIの活用事例の中で、見て、判断して、アクションするという一連の流れを先ほど伺いましたが、あのやり方が自動化の基本だろうと思います。一方で、最後のアクションについては簡単ではありません。
そもそも、どうやってアクションするのか、どこまで自動化できるのか、その具体的な形がある程度見定まっていないと、何のデータを見るのか、どう分析するのかも、本来想像できない領域でしょう。アウトプットが見えない中だと、ただデータを集めるという形になってしまいかねません。
その点でいくと、御社のように装置開発の部隊を自前で持っているというのは、ものすごい強みだと思います。
塚本 確かにそうですね。社内で提案する際も、開発した結果何が実現できるのか、今と何が変わるのかをしっかりと描けるように意識しています。
本来は全ての工程でそれを実現したいのですが、おっしゃる通り、まだアクションの段階で難しい工程もあるので、例えば先ほどのロボットによる自動化など、ピンポイントでできることを先に実現している段階です。
そうすることで、われわれが目指しているのはこういうことですよという具体例を示すことができますし、これを広げて進めていきましょうという大きい流れを作ることができます。
田口 最後に、読者の皆さまにメッセージをお願いできますか。
塚本 社内のいろいろな部署だけではなく、食品メーカー、機械メーカー、サプライヤーなど社外の皆さんと協力しながら、いいものを作って進歩していきたいと思っています。また、特に技術系、工学系の学生の皆さんにも、働く場の1つとして、ニチレイフーズを考えていただけるとうれしいです。
エンジニアを目指す方の就職先として、一般的には食品業界はあまり候補に挙がらないと思うのですが、当社の場合はさまざまな部隊があり、エンジニアとして多彩な経験をすることができます。もし興味を持っていただけたら、ぜひ、一緒に働きたいですね。
多くの皆さんと力を合わせて、当社のコンセプトである「くらしに笑顔を」の実現に向け、これからもおいしく安心安全な食品を世の中に届けていきたいと思っています。
2002年、ニチレイに入社し、食品工場でのエンジニアリング業務全般を担当。2006年からはニチレイフーズにて、品質保証に関わる技術開発業務やタイの新会社・新工場の立ち上げプロジェクトに従事。2021年より現職。
2002年、明治大学大学院 理工学研究科修了後、インクス入社。2009年にコアコンセプト・テクノロジーの設立メンバーとして参画し、3D CAD/CAM/CAEシステム開発、IoT/AIプラットフォーム「Orizuru」の企画・開発などDXに関する幅広い開発業務をけん引。2015年に取締役CTOに就任後は、ものづくり系ITエンジニアとして先端システムの企画/開発に従事しながら、データでマーケティング&営業活動する組織/環境構築を推進。□□□□
※ 2人の所属およびプロフィールは2024年2月時点のものです。
CORE CONCEPT TECHNOLOGIES INC.