B2B製品のデザインが競争優位性を高めるために果たす役割や、具体的な取り組みについて解説してきました。それを踏まえ、ここからは、さらに一歩踏み込んで、B2B製品のデザインにおいて、競争優位性を高めるための具体的なデザイン戦略を3つご紹介します。
B2B製品におけるデザイン活用を進めるに当たって、まず取り組むべきは「顧客起点」の重視です。
「顧客起点」とは、顧客のニーズや課題を深く理解し、それを解決することです。機能や性能などの技術的要件が重要視されがちなB2B製品においても、顧客を深く理解し、彼らの課題解決に焦点を当てることは重要です。
特に、開発初期における顧客起点に基づくデザインプロセスでは、以下のような取り組みを行います。
顧客起点に立つために、ユーザーインタビュー、アンケート調査、観察などの顧客調査を通じて顧客のニーズや課題を深く理解します。顧客調査を通して顧客の感情や価値観を把握することで、顧客が共感できる課題やストーリーに関する気付きを得ることができます。
顧客調査の気付きを基に、課題とその解決策に関する仮説を構築します。ここで構築する仮説は、その精度の高さを問わないことがポイントです。そして、構築した仮説に基づき簡易的なプロトタイプを作成し、運用におけるリスクや技術的な制約の洗い出しを行います。これにより、仮説の検証、早期フィードバックの取得、リスクの低減が可能となり、開発を迅速に推進することができます。
ユーザーテストでは、実際に使用するユーザー、またはそれに類する人に特定のタスクを実行してもらい、利用過程の観察、使いやすさや機能に関するフィードバックの収集を行います。プロトタイプを作成したら、社内評価だけでなくユーザーテストを行いましょう。ユーザーの観察やフィードバック収集は、製品の付加価値を上げるための有益な情報となります。
これらの取り組みを通じて得られた情報を、製品要件や製品仕様に反映することで、過剰スペックや技術者の自己満足が抑制され、顧客満足度の高い製品を開発することができます。
いずれも聞いて見れば当たり前のような取り組みですが、開発スケジュールに追われることが多い実際の現場ではおざなりにされがちです。
顧客体験の向上を目指す過程で、ブランドの一貫性を担保し、ブランドロイヤリティーを高めるには、ブランドアイデンティティーの構築が必要になります。
ブランドアイデンティティーは、これまでに触れたユーザビリティや視覚的魅力だけでなく、会社組織そのものも、その構成要素の一つとなり得ます。
製品自体の特性や独自性がブランドアイデンティティーの一部を形成します。例えば、パナソニックの「レッツノート」は軽量で耐久性が高く、長時間バッテリーを持つノートPCとして知られており、これが一つのブランドアイデンティティーであると捉えられます。そのブランドアイデンティティーが故に、レッツノートは堅牢(けんろう)性の要求レベルが高いビジネスユーザーに愛されています。
企業の文化や価値観もブランドの重要な構成要素となります。例えば、京セラは「アメーバ経営」という、小集団を作り、その集団で自主的に経営を行う独自の手法を取り入れています。京セラはアメーバ経営を通じて、社員一人一人が経営に参画し、自主性を発揮する文化を築いています。そして、これが製品開発や採用におけるブランドアイデンティティーとして認知され、京セラの競争優位性を高めています。
企業やブランドのロゴは、製品以外のさまざまな場所で使用される重要な視覚的要素であり、ブランドアイデンティティーの重要な構成要素です。Appleのリンゴマークのように、シンボルは一目でブランドを認識させ、記憶に残りやすい特徴を持っています。他にも、無印良品のロゴは、その名前が示す通り、シンプルで機能的なデザインを採用しています。これは過剰な装飾を排除し、必要なものだけを提供するという無印良品の理念を反映し、顧客の認知を高めることに貢献しています。
B2B製品においても、これらの観点でブランドアイデンティティーを構築し、顧客との強いつながりを生み出すことは十分可能です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.