なぜB2B製品にデザインが必要なのか? 競争優位性を高めるデザインの活用法設計者のためのインダストリアルデザイン入門(11)(5/6 ページ)

» 2024年07月09日 09時00分 公開

3.競争優位性を高める3つのデザイン戦略

 B2B製品のデザインが競争優位性を高めるために果たす役割や、具体的な取り組みについて解説してきました。それを踏まえ、ここからは、さらに一歩踏み込んで、B2B製品のデザインにおいて、競争優位性を高めるための具体的なデザイン戦略を3つご紹介します。

  • 3-1.顧客起点の開発
  • 3-2.ブランドアイデンティティーの構築
  • 3-3.デザイン組織の配置

3-1.顧客起点の開発

 B2B製品におけるデザイン活用を進めるに当たって、まず取り組むべきは「顧客起点」の重視です。

 「顧客起点」とは、顧客のニーズや課題を深く理解し、それを解決することです。機能や性能などの技術的要件が重要視されがちなB2B製品においても、顧客を深く理解し、彼らの課題解決に焦点を当てることは重要です。

 特に、開発初期における顧客起点に基づくデザインプロセスでは、以下のような取り組みを行います。

顧客調査の実施

 顧客起点に立つために、ユーザーインタビュー、アンケート調査、観察などの顧客調査を通じて顧客のニーズや課題を深く理解します。顧客調査を通して顧客の感情や価値観を把握することで、顧客が共感できる課題やストーリーに関する気付きを得ることができます。

仮説構築とプロトタイピング

 顧客調査の気付きを基に、課題とその解決策に関する仮説を構築します。ここで構築する仮説は、その精度の高さを問わないことがポイントです。そして、構築した仮説に基づき簡易的なプロトタイプを作成し、運用におけるリスクや技術的な制約の洗い出しを行います。これにより、仮説の検証、早期フィードバックの取得、リスクの低減が可能となり、開発を迅速に推進することができます。

ユーザーテスト

 ユーザーテストでは、実際に使用するユーザー、またはそれに類する人に特定のタスクを実行してもらい、利用過程の観察、使いやすさや機能に関するフィードバックの収集を行います。プロトタイプを作成したら、社内評価だけでなくユーザーテストを行いましょう。ユーザーの観察やフィードバック収集は、製品の付加価値を上げるための有益な情報となります。

 これらの取り組みを通じて得られた情報を、製品要件や製品仕様に反映することで、過剰スペックや技術者の自己満足が抑制され、顧客満足度の高い製品を開発することができます。

 いずれも聞いて見れば当たり前のような取り組みですが、開発スケジュールに追われることが多い実際の現場ではおざなりにされがちです。

3-2.ブランドアイデンティティーの構築

 顧客体験の向上を目指す過程で、ブランドの一貫性を担保し、ブランドロイヤリティーを高めるには、ブランドアイデンティティーの構築が必要になります。

 ブランドアイデンティティーは、これまでに触れたユーザビリティや視覚的魅力だけでなく、会社組織そのものも、その構成要素の一つとなり得ます。

製品としてのブランドアイデンティティー

 製品自体の特性や独自性がブランドアイデンティティーの一部を形成します。例えば、パナソニックの「レッツノート」は軽量で耐久性が高く、長時間バッテリーを持つノートPCとして知られており、これが一つのブランドアイデンティティーであると捉えられます。そのブランドアイデンティティーが故に、レッツノートは堅牢(けんろう)性の要求レベルが高いビジネスユーザーに愛されています。

組織としてのブランドアイデンティティー

 企業の文化や価値観もブランドの重要な構成要素となります。例えば、京セラは「アメーバ経営」という、小集団を作り、その集団で自主的に経営を行う独自の手法を取り入れています。京セラはアメーバ経営を通じて、社員一人一人が経営に参画し、自主性を発揮する文化を築いています。そして、これが製品開発や採用におけるブランドアイデンティティーとして認知され、京セラの競争優位性を高めています。

シンボルとしてのブランドアイデンティティー

「iPhone 15 Pro」 参考画像2 「iPhone 15 Pro」 出所:Apple

 企業やブランドのロゴは、製品以外のさまざまな場所で使用される重要な視覚的要素であり、ブランドアイデンティティーの重要な構成要素です。Appleのリンゴマークのように、シンボルは一目でブランドを認識させ、記憶に残りやすい特徴を持っています。他にも、無印良品のロゴは、その名前が示す通り、シンプルで機能的なデザインを採用しています。これは過剰な装飾を排除し、必要なものだけを提供するという無印良品の理念を反映し、顧客の認知を高めることに貢献しています。

 B2B製品においても、これらの観点でブランドアイデンティティーを構築し、顧客との強いつながりを生み出すことは十分可能です。

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