三菱電機の若手メンバーが開発したロボットが「パズルキューブを最速で解くロボット」としてギネス世界記録に認定された。後編では、開発メンバーの証言を交えて世界記録達成までの歩みに迫っていく。
三菱電機 コンポーネント製造技術センターの若手メンバーが開発したロボットが「パズルキューブを最速で解くロボット」としてギネス世界記録に認定された。同社のFA機器や制御技術を活用したこのロボットはいかにして生まれたのか、製作に当たったメンバーに開発の舞台裏などを聞いた。
前編では世界記録を達成した「TOKUFASTbot(TOKUI Fast Accurate Synchronized motion Testing Robot)」の基本構成や挑戦の始まりなどを紹介した。後編では、各メンバーの証言を交えて世界記録達成までの歩みに迫っていく。
三菱電機 コンポーネント製造技術センター モーター製造技術推進部 機械デバイス技術グループの徳井太央貴氏(2017年入社)は、自身が開発に携わったサーボモーターやサーボモーターを使った巻線機の性能を証明しようと、当時の上司だった坂上篤史氏(2007年入社、現在は産業メカトロニクス製作所 NC製造部 主軸モータ基本開発課)とともに「パズルキューブを高速で解くロボット」のギネス世界記録への挑戦を開始した。このパズルキューブとは、各段を回転させながら立方体の6つの面の色をそろえるルービックキューブとして知られる立体パズルだ。
2022年9月にロボットの製作をスタートし、装置自体は半年ほどで出来上がった。ただ、その時点では指示したパターンに沿って動いていただけで、キューブの色認識や解法計算を行っておらず、まだ世界記録に届く状態ではなかった。
2023年4月に色認識を担当するメンバーとして、2020年入社のコンポーネント製造技術センター モーター製造技術推進部 評価システム開発グループの糸瀬智也氏が加わった。上司だった坂上氏からは“世界一に興味はないか”と誘われたという。「率直に面白そうだった。求められている業務以外で自分の業務を皆さんに見えてもらえるちょうどいいイベントで、乗るしかないと思った」(糸瀬氏)。
糸瀬氏自身もセンターで画像認識に関する指導育成対象に選ばれ、勉強を始めたばかり。まずは小さなキューブの1マスだけを見て何色かを認識するAIモデルの作成から取り掛かった。
対象をキューブ単体から面を広げていく中で、キューブの位置やキューブを回すロボットのハンドの影によって実際の色とは異なる色に認識してしまう問題が発生した。そこで、偏光フィルターを使って反射の影響をなくそうとした他、カメラで認識するキューブの数自体も限定した。
今回、2個のビジョンカメラを使っており、1個で3面をカバーする。1面当たり9個のキューブが並んでおり、全てを見るためには1個のカメラで27個、2個のカメラで54個のキューブを認識しなければならない。だが、徳井氏らは今回、1個のビジョンカメラで18個、つまり2個のカメラで計36個のキューブの色を認識すれば、残りのキューブの色も位置関係から分かることをつかんだ。認識対象を絞ることで、ロボットハンドの影がキューブに映り込んで色を誤認識する可能性を排除しようとしたのだ。
その上で、最終的には市販のクリーナーでキューブの色をこすり、反射を減らして映り込みを抑えるという手法もとったという(ギネス世界記録認定のルール上は問題ない)。
コンポーネント製造技術センター モーター製造技術推進部 巻線・自動化技術グループ グループマネージャーの中上匠氏(2003年入社)は、2023年の年末になってプロジェクトに加わった。坂上氏はかつての部下で、今回のプロジェクトに関しても以前から相談に乗っていたという。坂上氏の業務が多忙になっていたせいもあり、色認識や通信部分のサポートに中上氏が当たった。「天才肌の彼が頼ってくるのは珍しいと思った」(中上氏)。
中上氏も迎えて解法計算および産業用PCとの通信に着手し、2024年2月ごろにはエミュレーターから受信した色のパターンを基に実機を動かせるようになった。並行して開発していたAIモデルを産業用PCに組み込み、3月には動作するようになった。
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