その中上氏に声をかけられ、2024年3月にコンポーネント製造技術センター モーター製造技術推進部 巻線・自動化技術グループ 三浦菜月氏(2023年入社)も参加した。「CADの設計や試作が早くできるエンジニアを連れてきてほしいということで、部下だった三浦氏をチームに招いた」(中上氏)。
例えば、ルービックキューブは上段、中段、下段がそれぞれ回転するため、ちゃんとそろえたつもりでも各段でわずかなずれが生じやすい。そのずれが色の認識に影響を及ぼすこともあったという。そこで、各段をきれいに整った状態にする治具も三浦氏が3Dプリンタで制作した。
モーターから伸びたシャフトがキューブをつかむハンド部分の形状も試行錯誤した。ロボットの中でルービックキューブは通常では考えられないスピードで回転する。挑戦は0.01秒さらには0.001秒を争う世界であり、さらに一歩間違えればキューブが持ちこたえられない。「さまざまなパターンを作って、一番良かったものを採用した」(三浦氏)。
三浦氏は「最初は“ちょっと手伝ってほしい”ということだったが、何か頼まれて“いつまでに作ればいいのか”を聞くと“なるべく早く”といわれた。参加してからの1カ月半は“走り”ました」と苦笑するが、徳井氏は「“あったらいいな”と思っていたものをどんどん形にしてもらった」と感謝する。
こうして本番直前まで改良を続けながらTOKUFASTbotは完成した。
ギネス世界記録への挑戦は2024年5月21日。これは、徳井氏がげんを担いで大安の日を選んだ。
当日は、世界記録の収集、認定を行うギネスワールドレコーズジャパンから派遣された公式認定員の下で記録挑戦が行われた。
少し話題がそれるが、ルービックキューブには大会用に面の並びを崩す「スクランブル」と呼ばれるパターンがある。このパターンに沿って色がそろっている状態のルービックキューブを崩し(回し)、その状態から挑戦者が、今回ならロボットが完成に向けて回し始める。言い換えれば、1回回せば完成するような状態からスタートすることはなく、どの状態から始められるのかも事前に分からないようになっている。
これを踏まえて今回の挑戦でもスクランブルを行っているが、手順は厳格だ。まず事前に世界各地でルービックキューブの大会などを運営する世界キューブ協会のWebサイトから、スクランブルパターンを作成するためのプログラムをダウンロードする。その時点でプログラム自体にロックが掛かっており、事前にこのプログラムを使ってスクランブルパターンを作成することはできない。
当日、認定員がパスワードを入力してロックを解除し、そのプログラムを使ってスクランブルパターンが入ったファイル(ロック付き)を生成。その後、そのファイルを別のPCに保存し、不正を防ぐためさらにそのPCをネットワークから遮断する。そこで認定員が再度パスワードを入力してファイルを解凍し、その中にある7つのパターンから認定員がランダムに選んだパターンを徳井氏らに伝え、それに沿ってまずロボットを動かしてキューブを崩すという手順を踏んだ。念のため付け加えると、そのスクランブルパターンを逆に回しても完成はしない。
記録挑戦には、1時間という制限時間もあった。失敗した場合の新しいルービックキューブの設置やスクランブルの設定、その後のメカ調整の時間を含めると3回の挑戦が限度だった。
だが、1回目の挑戦は失敗してしまう。原因はメカ調整などだったが、それでも「想定の範囲内」と徳井氏は冷静だった。用意していた別のルービックキューブで2回目に挑んだ。
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