メンバーの愛と情熱が源、ルービックキューブ世界最速ロボ開発秘話(前編)三菱電機ギネス世界記録への道(2/2 ページ)

» 2024年06月25日 07時00分 公開
[長沢正博MONOist]
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自社製品や設備への愛と情熱から世界記録への挑戦を決意

 今回の挑戦の発端となったのが、コンポーネント製造技術センター モーター製造技術推進部 機械デバイス技術グループの徳井太央貴氏だ。

 徳井氏は、2017年に三菱電機入社後、コンポーネント製造技術センターに配属された。同センターはモーターなどの電磁気を応用した関連機器、パワーデバイス、モジュールおよびこれらを統合した製品の開発企画から量産安定化までを支援している。

 徳井氏も同センターでサーボモーターおよびサーボモーターを使った製造設備の開発に当たってきた。その設備が、家電や鉄道向けなど幅広いモーターの製造工程で、高速で電線を巻き取りモーター内のコイルを作る巻線装置といわれるものだ。

 徳井氏は大学では物理を学んでおり、入社するまでモーターとは関わりがなかったが、自らも開発に携わる中でモーターやモーターが組み込まれた巻線装置に愛着を持つようになったという。徳井氏はTOKUFASTbotにも搭載しているMELSERVO-J5の開発にも携わっている。

三菱電機の徳井氏

「高い性能を持っていることが自ら実感でき、愛と情熱をもって仕事に取り組んできた。ただ、モーターがすごい速度で回転しているのに、外部に人に巻き線機を見せてもなかなか分かってもらえず、もどかしい思いをしていた。何かの方法で分かりやすくアピールできないかと題材を探していて、その時に当時のパズルキューブを最速で解くロボットを見つけた」(徳井氏)

 自分たちの巻き線装置は世界一だと自負していた中で、ギネス世界記録を獲れば明確に世界一だと証明できる。以前のギネス世界記録は、米国のマサチューセッツ工科大学のメンバーが2018年に打ち立てたものだった。動画を見ても、モーターの性能では上回れる自信があった。上司に当たる当時の課長とともに部長に相談すると、すぐにセンター長の前でプレゼンテーションすることになり、とんとん拍子にギネス世界記録への挑戦が決まった。

 また、コンポーネント製造技術センターでは2022年から、失敗を恐れずに新しいこと、わくわくするようなことへの挑戦を後押しする「わくわくプロジェクト」が始まったばかりだった。「ちょうどいい題材だと思った」(徳井氏)。こうして2022年9月にギネス世界記録に向けたプロジェクトが動き出した。

 徳井氏はルービックキューブを購入し、そろえ方や構造を理解することからスタート。まずは当時の上司とともに通常業務の合間を縫ってロボットの開発を始め、装置としては半年ほどで出来上がったという。ただ、その時点では画像認識や解法計算をせず、事前に決めたパターンに従って動くもので、タイムは0.5秒ほどだった。

前ページで紹介したものよりゆっくりした動作で動くTOKUFASTbot[クリックで再生]

 モーターには自信があった徳井氏も、画像認識などは専門外だった。そこから他の若手メンバーを加えながら、色認識や解法計算の高速化、モーター自体の手動チューニングを行っていくことになる。

 後編では、他のメンバーの証言も交えながら、ギネス世界記録達成に至るまでの歩みにより迫っていく。

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