それでは、主要各国の資金過不足を見てみましょう。少し図版が連続しますが、ご容赦ください。
上記のグラフは、主要国の資金過不足を並べたものです。細かい数値よりも雰囲気を見てもらえばと思います。ここからは、資金過不足がプラスの部門を黒字主体、マイナスの部門を赤字主体と表現しましょう。
米国、英国、フランスは少し似た感じがします。日本以外の国は、意外と企業(赤)の存在感が薄いですね。
多くの国で政府(緑)が赤字主体ですが、ドイツや韓国は海外(黄)が赤字主体です。また、家計が黒字主体なのは共通していますが、カナダだけ近年赤字主体ですね。
カナダは家計が住宅投資などに積極的ということかもしれません。なぜカナダがこのような挙動になっているのかは、ストック面、特に株式を見ると分かると思います。次回以降で紹介します。
ここで重要なのは、やはり企業の挙動です。他国では企業の資金過不足がかなり小さいということは、その年ごとに、投資を比較的貯蓄内で収めていると考えられます。
特に日本はバブル崩壊まで企業の資金不足が大きく、それだけ家計の資金余剰が大きかったことがはっきりと分かりますね。そして1998年以降は、今度は企業が負債を減らし、資金余剰が大きくなっています。
はい。この状態も、他国と比較してみればかなり異質であることが分かりますね。ちなみにOECDで企業が大きく黒字主体化しているのは、日本の他にデンマーク、オランダ、スペインくらいです。
企業の挙動が、(1)バブル崩壊までは借入を大きく増やしながら投資をして、その後は(2)増えすぎた借入を返すことで黒字主体化し、そして(3)海外投資を増やすことで黒字主体が継続している、という3つの大きな変化を経ているわけですね。
そのいずれもが、他の主要国には見られないですね。
はい、おっしゃる通りです。バブル期に過剰に増えた借入は、2010年頃までに調整されたとみることができますが、その後の変化がどのような影響を及ぼすのか、今後の推移が気になるところです。
今回はここまでとして、次回以降でストック面について紹介していきましょう。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
古川拓(ふるかわ たく)
TOKYO町工場HUB 代表
京都大学法学部卒。バンカーとして日米で通算15年間勤めたのち、2004年に独立。技術と創造力で社会課題の解決を促すソーシャルデザイン/プロデュースの道を進む。自ら起業家として活動しつつ、ベンチャーファンドの取締役、財団理事等を歴任し、国内外で活動してきた。
2017年よりスタートアップのエコシステム構築を目指すTOKYO町工場HUBの事業を開始。さらに2022年より和文化(工芸、芸能、食文化)を海外向けにプロデュースするTokyo Heritage Partnersを立ち上げ、現在に至る。
2009年〜2020年:東京大学大学院新領域創成学科の非常勤講師(持続可能な社会のためのビジネスとファイナス)を務めた。現在、東京都足立区の経済活性化会議他、東京観光財団エキスパート(ものづくり分野担当)、各種審議委員会の委員を務める。
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