連載「設計者CAE教育のリデザイン(再設計)」では、“設計者CAEの教育”に焦点を当て、40年以上CAEに携わってきた筆者の経験に基づく考え方や意見を述べるとともに、改善につながる道筋を提案する。連載第4回では「CAE活用のグランドデザインの必要性」について解説する。
筆者は還暦をとうに超えた今でも、お客さまを訪問して、現場の方々から直接お話を聞くことが多くあります。より経営に近いポジションの方にお会いすることもありますが、現場の方々と話す方が多いです。なぜなら、本当の課題は現場が持っているからです。
バブル時代はモノが飛ぶように売れたため、生産することにフルパワーを使いました。教育やその体系作りに費やす時間は極わずかです。そして、バブルが崩壊……。生産することに費やされてきたパワーは、大量生産が定常化されたラインや仕組みを見直し、縮小することに使われました。そうこうしているうちに30年が失われ……。
今では、バブル崩壊の後始末も落ち着き定常状態になり、「今後の企業のあるべき姿」を考える時間ができました。皆さんは知恵を出し合い、会社のいろいろな仕組みについて考え、その再構築に乗り出しました。その取り組みの一つとして、「CAEの活用」をテーマに掲げる会社も多いことでしょう。業務改革などの全社的な取り組みは、全社を統括する組織やチームが対応します。しかし、CAEは専門性が高い技術なので、CAEチームに一任されます。
CAE活用の第一歩は、皆にCAEを使ってもらうことです。そのためにチームは、講習会を開催したり、手順書を作ったりしてCAEの活用を促します。その成果はどうだったでしょうか。もちろん、この方法で大きな成果を上げた会社もありますが、筆者が訪問したほとんどの会社では、目立った成果に結び付けることができていませんでした。講習会の実施、手順書の作成、一つ一つの活動はどれも正しいのに、なぜ成果が上がらないのか……。それは「体系化」ができていないからです。
あるお客さまは次のように言っています。
やるべきことは全部やって、一回りしちゃったんですが、次に何をやっていいか分からないのです……。
また、CAEに特化した教育専門会社の代表は、次のようにつぶやきます。
お客さまといろいろとお話をさせていただくと、人材育成という点について、もちろん、トレンド的なものがあったりはしますが、やり方や内容に正解があるわけではなく、理念や思い、重点事項のような軸がしっかりしていることが大切なのかなと思わされます。
日本の識字率はほぼ100%です。それは体系化された義務教育によるものです。小中学校には教育に対するしっかりとしたビジョンとグランドデザインがあります。そのフレームワークにCAEの教育や活用をマッピングしてみるのはどうでしょうか。
ビジョンの策定や、目的の明確化って何だかまどろっこしい感じがしますよね。筆者もずっとそう思っていました。ところが、いざやってみると非常に効果が高いことに気付かされました。実際の業務で実証済みです。
多くの小中学校では、教育の目的を定義するためにグランドデザインを作成しています。グランドデザインとは何か、ということについては静岡県藤枝市のWebサイトから引用させていただきます。
小・中学校のグランドデザイン
グランドデザインとは「学校の教育理念や果たすべき役割を描いた経営全体構想」という意味です。その年度の各学校における教育が目指す姿を示したもので、各校の特色などを分かりやすく1枚の図にしたものです。(静岡県藤枝市のWebサイトより)
図解によるフォーマットは学校によって多少異なりますが、大体は図1のような感じです。この図は「CAEの教育システムを構築する」ことを目標として描いています。
一番上は「目標」です。今回は「CAE教育システム目標」となります。中段は「目指す姿」です。関係者や組織もそれぞれ考慮した教育システムの目指す姿となります。そして、一番下が「教育システムづくりの方針(重点目標):重点目標達成のための3つの柱」です。
このCAE教育システムを作る人は、CAEチームの人です。チャートの構成は簡単ですが、真剣に作ろうとすると他の部署の人の意見を聞かなければなりません。このフェーズをサボると、使えない教育システムとなってしまいます。ユーザーがCAEに対して何を望んでいるのかを、しっかりとヒアリングする必要があります。
教育には費用が必要ですし、仕事以外の時間を確保してもらう必要があります。教育のビジョンを明確にすることは抽象的で根気のいる作業ですが、教育に必要な予算や時間を、経営層や管理職に確保してもらうためのベースになります。「こういう講習会を実施するので、担当者を参加させてください」という単発的な教育よりも、「経営層から合意を得ているグランドデザインにのっとって、こういう講習会を実施するので、担当者を参加させてください」という方が、障害が少なくなるというものです。
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