リコーは2024年4月22日、ドイツのAIスタートアップであるnatif.aiを買収し、子会社化したと発表した。「インテリジェントキャプチャー」に強みを持つ企業で、リコーが注力領域と定めるプロセスオートメーションの成長につなげる狙いだ。
リコーは2024年4月22日、ドイツのAI(人工知能)スタートアップであるnatif.aiを買収し、子会社化したと発表した。「インテリジェントキャプチャー」に強みを持つ企業で、リコーが注力領域と定めるプロセスオートメーションの成長につなげる狙いだ。
natif.aiは2019年にドイツで創業したAIスタートアップで、現時点で従業員は30人。さまざまな種類、レイアウトのドキュメントを自動で分類し、データ抽出するインテリジェントキャプチャー技術に強みを持つ。文書画像処理の大規模言語モデル(LLM)の自社開発を行っており、競合他社と比較すると同規模のパラメーターでより高度な処理技術を実現できる点に優位性がある。
買収はリコーグループ傘下で、デジタルデータの管理、システム連携用プラットフォームを展開するDocuWareが行った。買収額は非公開だが、概算で数十億円程度としている。
今回の買収を通じて狙うのが、プロセスオートメーション領域の成長強化だ。同領域はデジタル技術の活用によってワークフロー自動化を目指すというもので、リコーが注力する成長分野だ。既にリコーは企業がデータの収集から蓄積までを一貫して実現するための、さまざまなアセットをM&Aなどを通じてそろえてきた。例えば、2022年に買収したPFUのスキャナー製品はアナログデータの素早いデジタル化に貢献し、同じく買収したDocuWareによってデータの蓄積や活用を支援できる。
リコーはこれらの既存アセットにAI技術を組み合わせることで、顧客の業務における「タスクゼロ化」や、その先にある、より高度なデータ活用の実現まで支援できると考えている。データのデジタル化、収集から意思決定における活用までをシームレスに統合するDX(デジタルトランスフォーメーション)支援を新たな事業成長の軸として構想する。
そうしたDX支援を実現する上で、課題となるのがそのままではデータ抽出が難しい、非構造化データの存在だ。リコー デジタルサービスビジネスユニット デジタルサービス事業本部 プロセスオートメーション事業センター 所長の髙松太郎氏は「企業で扱っているデータの90%は非構造化データだといわれる。また技能プロセスで利用されるデータの70%は紙とデジタルのハイブリッドになっている」と指摘する。注文書や契約書、納品書、請求書などの書類は紙媒体やメール、PDFなど多種多様な媒体でやりとりされ、その記載形式も統一されていない。さらにそれらのデータのシステム間の受け渡しが人手で行われていたり、システム化がなされていなかったりすることが、DXの障壁となっている。
この課題を解決するものとしてリコーが期待するのが、AIを用いたインテリジェントキャプチャー技術だ。natif.aiでは帳票や業務別の事前学習を済ませたAIモデルを用意しており、顧客の利用環境に合わせたより高精度な個別の学習モデルも作成できる。
これらのAIモデルはDocuWareと連携させることで、注文書や納品書、請求書など帳票タイプの異なる明細データを自動で突合処理することも可能になり、伝票チェックの業務自動化が図れる。インテリジェントキャプチャー技術で抽出したデータをリコーが持つデータの構造化技術を適用した上でデータベース化することで、LLMなどと組み合わせたデータ活用も可能になる。企業の非構造化データ活用を一気通貫で支援することができる。
説明会の会場ではnatif.aiのインテリジェントキャプチャー技術を紹介する、PFUのスキャナーを活用した幾つかのデモを披露した。1つは、手書き文字を含む、しわが付いている状態の悪い帳票からのデータ抽出だ。Natif.aiが提供するWebインタフェース上では、問題なく帳票が読み取られ、顧客情報などのテキストデータがOCRで処理されて抽出されている様子が見られた。
リコーはnatif.aiの買収を、顧客の業務プロセスとデータをEnd to Endでつなげる「ミッシングピース」の獲得だと位置付ける。natif.aiのサービスの日本語対応は、2024年9月末をめどに進めるとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.