東京大学とNTTは、パイクリスタル、東京工業大学とともに、金属元素を一切含まないカーボン系の材料だけを用いて、p型とn型のトランジスタの組み合わせから成る相補型集積回路を開発したと発表した。
東京大学と日本電信電話株式会社(NTT)は2024年3月28日、パイクリスタル、東京工業大学とともに、金属元素を一切含まないカーボン系の材料だけを用いて、p型とn型のトランジスタの組み合わせから成る相補型集積回路を開発したと発表した。同回路を用いたアナログ/デジタル回路は室温大気下で安定に動作し、4ビット信号の出力デバイスとして動作させることができたという。有機材料と無機材料を複雑に組み合わせて構築する半導体や電子部品などの電子デバイスはリサイクルを含めたごみ処理が困難ことが課題だった。金属元素を一切含まない今回の開発成果により、リサイクル不要で使い捨てできる無線通信が可能な電子タグやセンサーデバイスの実現につながる可能性がある。
今回の開発成果は、東京大学がこれまで有機トランジスタの材料として研究開発に取り組んできた、p型有機半導体のC9-DNBDTとn型有機半導体のPhC2-BQQDIを用いている。両材料とも、印刷技術を応用しての成膜が可能で、半導体中における電荷の移動しやすさの指標となるキャリア移動度が高いという特徴がある。これまでは、これらの有機トランジスタが金属を含んでいなくても、電極や絶縁層に金、銀、プラチナなどの貴金属や酸化アルミニウム、酸化ハフニウムなどの金属酸化物を使用することが多く、集積回路全体としては金属元素が含まれることに変わりはなかった。
そこで東京大学とNTTを中心とした研究グループは、有機トランジスタを駆動できるカーボン電極とそのパターニングプロセスを新たに開発。ポリイミドフィルム基板とパリレン絶縁層という高分子材料と組み合わせることで、基板、絶縁層、半導体、電極、配線の全てがカーボン系材料から成る有機トランジスタおよびその相補型回路の作製に成功した。
金属元素を含まないことは、元素分析だけでなくICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)も用いて、網羅的かつ高感度な組成分析を詳細に行って確認した。電子回路中の金属元素の全量が50ppm(0.005%)未満であることを確認できたという。この値は、土壌中のさまざまな金属元素の含有量と比較しても極めて低い。
また、主な用途として想定する無線通信デバイスに必要な通信用回路の実現に向け、自己発振回路であるリングオシレーター、最も基本的な論理回路の一つであるインバーター(NOT回路)、記憶素子としても用いられるDフリップフロップ、そしてパラレルデータをシーケンシャルデータに変換するマルチプレクサから成るアナログ/デジタル集積回路も作製した。そして、これらを相互接続して構築した64個のp型およびn型トランジスタから成る4ビットID出力電子回路が、室温大気下であっても安定に動作することを世界で初めて実証したという。
なお、研究グループは、東京大学大学院新領域創成科学研究科 特任助教の渡辺和誉氏、同研究科 准教授の渡邉峻一郎氏、教授の竹谷純一氏、NTT 先端集積デバイス研究所の三浦直樹氏、田口博章氏、小松武志氏、荒武淳氏、パイクリスタルの牧田龍幸氏、田邉正廣氏、脇本貴裕氏、東京工業大学物質理工学院 応用化学系 特任准教授の熊谷翔平氏、同系 教授の岡本敏宏氏で構成されている。研究成果は、2024年1月17日付でドイツの科学雑誌「Advanced Materials Technologies」のオンライン速報版で公開された。
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