ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。今回は「平均給与」に注目します。
今回は、労働者の平均給与についての国際比較をご紹介いたします。私たちの給与水準が高いのか低いのか、興味のある方も多いのではないでしょうか。
参照する統計データは、OECDのAverage annual wagesです。この統計では、次の3つの平均給与についてデータが公開されています。
まずは、日本の自国通貨建てのデータを眺めてみましょう。
図1はOECDが公開している平均給与の推移です。青が名目値、赤が実質値となります。図1からも明らかですが、日本の平均給与は名目値も実質値も横ばい傾向が続いています。
名目値は額面の金額そのものを表す数値です。平均給与の名目値はピークとなった1997年からしばらく減少傾向が続き、2015年あたりから上昇傾向に転じたようです。ただし、最新の2022年でもまだ1997年のピーク値を超えるかどうかといった状況ですね。以前ご紹介した通り、男性労働者は世代別に見ても総じて給与水準が目減りしています。
実質値とは、物価の変動による影響を除外した、数量的な変化を推定した数値です。物の値段が上がれば、同じお給料をもらっていても買えるものが減ってしまいますね。
その物価の変動分だけ割り引いで、同じ金額で買える物の数量がどれだけ変化したのかを表そうと試みるのが実質値ということになります。具体的には次のような計算で算出されます。
物価指数はある年の物価を基準とした指数(倍率)で、その基準年からの物価変動の度合いを表す指標です。今回のOECDのデータは2022年を実質化の基準年としていますので、2022年で名目値と実質値が一致します。
直観的な理解としては、実質値とは2022年の物価レベルで各年の数値を合わせた場合の数量的な変化を見ている事になります。
OECDの場合は、平均給与の実質化のための物価指数として、民間最終消費支出デフレータが使用されています。GDPデフレータや消費者物価指数でない点は注意が必要ですね。日本の統計には、実質賃金の減少傾向が続いているというデータもありますが、この物価指数の違いが大きく影響しているようです。
OECDのデータにおける実質値については、同様に1997年あたりから450万円の近辺でアップダウンを繰り返しつつも、横ばい傾向が続いています。日本はデフレが続き物価が下がったと言われますが、実質的にも労働者の給与は増えていないことになります。
OECDの平均給与がどのように計算されているのかをご説明しておきましょう。具体的には次のような計算式で各国の平均給与が算出されているようです。
賃金・俸給(Wages and salaries)とは、GDPの分配面に含まれる雇用者へ実際に支払われた賃金の総額となります。雇用者(Employees)とは、企業に雇用されている労働者を意味していて、個人事業主(Self-employment)を含みませんが、パートタイム労働者は含まれます。
雇用者に支払われる賃金の総額を、雇用者数の合計人数で割るため、雇用者の年間の平均給与が計算できるというわけです。
ただし、パートタイム労働者は年間の労働時間がフルタイム労働者と異なります。そのため、パートタイム労働者がフルタイム労働者と同じだけ働いたと仮定した場合の調整が追加されています。
それが、上式の後半のフルタイム労働者の週平均労働時間をかけ、雇用者の週平均労働時間で割るという計算部分です。これにより、パートタイム労働者がフルタイム働いたと見なした年間の平均給与(Average annual wages per full-time equivalent dependent employee)を計算したことになります。各国でパートタイム雇用率も異なりますので、より公正に給与水準を比較するための措置だといえるでしょう。
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