実機レスでライン立ち上げを大幅に短縮 三菱電機がデジタルツインで目指すもの制御システムシミュレーション

モノづくりの現場における工期短縮のニーズが高まる中、三菱電機がロジックシミュレータ「MELSOFT Mirror」を新たにリリースした。生産現場の制御システムをPC上で丸ごとシミュレーションすることにより、開発工程のフロントローディング化と工期短縮を実現する。MELSOFT Mirrorの開発背景や期待される現場への効果などについて、開発チームにMONOist編集長の三島一孝が話を聞いた。

» 2024年02月26日 10時00分 公開
[PR/MONOist]
PR

 デジタル技術を活用した新たなモノづくりが加速する中、製造現場ではさらなる工期短縮が求められている。三菱電機は3Dシミュレータ「MELSOFT Gemini」、SCADAソフトウェア「GENESIS64」、データ分析/診断ソフトウェア「MELSOFT MaiLab」など多くのソリューションソフトウェアを提供しているが、その中で新たにリリースしたのが、ロジックシミュレータ「MELSOFT Mirror」だ。

 MELSOFT Mirrorの開発背景や期待される現場への効果などについて、開発部門のリーダーである長尾知幸氏(FAデジタルエンジニアリング推進部 ソフトウェア開発グループマネージャー)、同グループで開発を担当した久家諒氏、ソフトウェアの開発統括を行っている市岡裕嗣氏(ソフトウエアシステム部 部長)、顧客にソフトウェアの利活用を提案している児玉親宏氏(FAデジタルエンジニアリング推進部 ソリューショングループ)にMONOist編集長の三島一孝が話を聞いた。

複雑な装置をシミュレーションしたいというニーズの高まり

三島 まずはMELSOFT Mirror開発のきっかけを教えてください。

photo MELSOFT Mirrorの開発に携わった久家諒氏

久家氏 5〜6年ほど前にシーケンサのユーザーである装置設計者の方々から「製造装置が複雑化する中で、1つのCPUの制御部分だけをシミュレーションするのでなく、複数を組み合わせた形でシミュレーションしたい」という声を頂いていました。製造ラインの自動化が進み、自動化される領域が増えれば増えるほど制御システム同士の擦り合わせ作業が増えていきます。今後こういうニーズが増えることは間違いないと考え、2年前から開発に着手しました。

長尾氏 こうした制御システムをシミュレーションする場合、大きく分けて2つのやり方があります。一つは、PCの横にシーケンサの実機を並べた検証用の機材を使ってシミュレーションするやり方です。もう一つが、PCのソフトウェアで仮想的に制御システムを構築してシミュレーションするものです。

 シーケンサの実機を並べた検証用の機材を使ってシミュレーションする場合は、機材をそろえる負担や時間が課題でした。ソフトウェアで行う場合は、ソフトウェアでは動かせる機能が少なくて十分な検証ができず、結果として実機での調整の負荷をそれほど低減できませんでした。どちらの手法にも限界があったのです。そこをクリアできればニーズがあるだろうと考えました。

photo 顧客企業に利用提案を進める三菱電機の児玉親宏氏

児玉氏 私はお客さまの現場に入ってモノづくりの変革などを推進する立場なのですが、お客さまでモノづくりそのものを大きく変えようという動きが生まれてきており、工程設計においても新たな挑戦によって変革を進めることが求められていました。

 その中でさまざまなトライ&エラーをするには、シーケンサの実機を準備して検証しなければなりませんでした。このやり方では、実機を準備するのがそもそも大変なことに加え、検証結果次第では用意した機材が無駄になる可能性もあります。こうした無駄を減らすためにも、デジタル環境でいろいろなアイデアを検証できる環境が求められていました。


ラインや装置組み上げ後のデバッグ期間を短縮できる

三島 あらためてですが、MELSOFT Mirrorの特長を教えてください。

久家氏 MELSOFT Mirrorは、シーケンサなどの実機を使わずに制御プログラムを仮想環境でシミュレーションできるソフトウェア製品です。最大で50の制御ユニットを仮想的に設置可能で、生産現場の制御システムを丸ごとシミュレーションできる点が特長です。

photo MELSOFT Mirrorの概要[クリックで拡大] 提供:三菱電機

 場所を問わず複数人が同時に仮想環境で制御プログラムを開発できるため複数の機器ベンダーによるライン構築前の検証も円滑に行える点や、調整するためだけの無駄な制御プログラムを組む必要がなくなることで、現場調整含むデバッグ期間を大幅に短縮できる点も特長です。また、三菱電機が提供する3DシミュレータMELSOFT Geminiとの併用で制御プログラムの実行状態を3Dで可視化して、ラインや装置全体の動作を検証することもできるので、MELSOFT Mirrorだけでは気付きにくいメカの干渉がチェックできて立ち上げ時の現地調整工数をさらに削減できます。

MELSOFT Mirrorの画面イメージ[クリックで拡大] 提供:三菱電機

 現状MELSOFT Mirrorで対応している制御ユニットの一つとして、制御の結果をシンプルに返すシンプルモーションユニットがありますが、アナログ信号や各種情報に対応するインテリジェントユニットなども今後対応を検討します。インタフェースとして、EZSocket/MELSOFT接続による対応機器やソフトウェアの接続性の確保だけでなく、SLMPなどのオープンな通信仕様に対応し、三菱電機製以外の各種機器との接続性も確保します。お客さまの製造ラインは必ずしも三菱電機製の機器だけで構成されているわけではないので、そういう機器構成でもシミュレーションできるように順次対応するつもりです。

photo アナログ信号など対応できる情報を拡張[クリックで拡大] 提供:三菱電機

三島 MELSOFT Mirrorを使うと具体的にどういう効果が得られるのでしょうか。

児玉氏 従来は設計フェーズにおける事前検証で「実機がそろうまで検証できない」ため、機材待ちが生じていましたが、その時間を削減できます。また、生産準備の立ち上げフェーズにおけるマイルストーンとして、全ての設備を搬入した直後の連携試験があります。従来は、個々では事前検証で問題がないことを確認済みでも連携試験の場では多くの問題が起こり得ました。そのため、ラインや装置の組み上げ後のデバッグ期間の設定は困難でした。

 MELSOFT Mirrorを使うことによって、複数企業がまたがるライン上の設備の場合でも実機レスで制御プログラムを机上検証できるようになります。そのため、このデバッグの期間を設計フェーズ側に前倒しする事で問題の早期発見と対策ができ、立ち上げ期間を限りなく低減できます。そのため、全体の日程調整を従来より見通しの高い状態で進められます。

photo MELSOFT Mirrorの開発に携わった長尾知幸氏

長尾氏 細かいことですが「緊急停止」についての検証を非常に簡単に行えるというのも利点です。緊急停止は、複数の制御システムをまたがる一方でクリティカルなものであるため検証の重要度が高いのですが、組み合わせたときにうまく機能しない場合、問題点の洗い出しが難しく、時間がかかります。

 MELSOFT Mirrorを使えば、緊急停止したときにライン全体がどう動くのかを簡単に検証できます。どのタイミングで緊急停止をしたらどう動くのか、制御にエラーがあるとライン全体で何が起きるのかなども見られるので、簡単に試行錯誤できます。


2024年1月の受注開始後、既に大きな引き合いも

三島 開発を進める上で、苦労した点はありますか。

久家氏 「GX Works3」のシミュレーション機能など、個々の制御プログラムのシミュレーションは以前からありましたが、今回開発したMELSOFT Mirrorは複雑で大規模な構成でのシミュレーションにも対応できるソフトウェアです。ラダー言語で書かれるシーケンサ用のプログラムを読み解いてPCで素早くシンプルに動かせるようにするために、さまざまな工夫が必要でした。特に実行速度の改善が一番苦労したところです。一般的なエンジン(エミュレータ)も試しはしたのですが、最終的には独自エンジンを開発しました。

三島 リリース後の反応や期待感についてどうですか。

児玉氏 2024年1月に受注を開始したばかりですが、大きな期待を感じています。リリース前からパイロット版として試験的に使って頂き、リリース直後のタイミングですぐにご購入頂いたお客さまも複数いらっしゃいます。

photo ソフトウェア開発を統括している市岡裕嗣氏

市岡氏 新製品であるため、使い方についてはこれからさまざまな提案を頂いて拡充を進めていくところですが、シミュレーションは今まで以上に大きな存在感を示すようになってきていると感じています。基本的には、PCあるいはサーバの能力が上がればシミュレーションできる制御ユニットの台数を増やせます。クラウド上で動かせば検証台数をいくらでも増やせ、しかもどこからでもつなげて共同作業ができます。

 こうした環境をつくることができれば、遠隔地の工場で現地の生産ラインに何も設備が入っていない立ち上げ前の状態でも設備メーカーなどを取りまとめて複合的な制御システムの検証を事前に行うなど、さまざまな使い方がこれから生まれてくると考えています。

デジタルツインを実現するツールに

三島 今後、MELSOFT Mirrorをどのように進化させていこうと考えていますか。

久家氏 大きく分けて2つの方向での進化があると考えています。一つは、MELSOFT Mirrorの能力を上げるという方向です。現在、入出力であればシンプルモーションユニットに限られるなど構成に制限がある状態ですから、この制限を一つずつクリアして、ニーズに合わせて柔軟に構成できるようにします。シミュレーションできるユニット数が現在は最大50個ですが、これも増強するつもりです。

 もう一つが、シミュレーションソフトならではの機能を追加するという方向です。現在はリアル時間に対してシミュレーションは2倍速/4倍速(スローは2分の1/4分の1)での再現が可能ですが、仮想世界の利点をより生かすために倍速性能などをさらに強化したいと考えています。シミュレーションソフトとして「これができたらいいのに」という機能をどんどん増やしていきたいと考えています。

photo MONOist編集長 三島一孝

三島 デジタルツインの実現に向け、他のシミュレーションソフトウェアとの連携などについてはどのように考えていますか。

長尾氏 SCADAなど他のソフトウェアや外部機器などともつないでいけるようにすることで、より幅広い情報を取り込んでシミュレーションできる範囲を広げることを考えています。MELSOFT Mirrorは「ロジックシミュレータ」としていますが、制御ロジックのシミュレーションだけにとどまらずデジタルツインとしてリアルの世界と緊密に連携するバーチャルの世界を構築し、その上でさまざまなシミュレーションができる世界を作りたいと考えています。

市岡氏 まずは基本的な使い方から採用、活用が進むとみていますが、デジタルシミュレーションが定着してくると、その次は異なる要素を掛け合わせて幅広い用途でシミュレーションを活用したいというニーズが必ず出てきます。三菱電機は数多くの機器やソフトウェアによるソリューションを提供していますが、それでも不十分なところも生まれてくると思いますし、仲間作りやエコシステムの構築が重要になってくるとみています。さまざまなパートナー様とソフトウェア連携や通信連携を実現する体制をつくり、オープンなプラットフォームとして製造現場の課題解決に貢献できるようにしていくつもりです。

三島 ありがとうございました。

photo 左から児玉氏、長尾氏、MONOist三島、久家氏、市岡氏

ロジックシミュレータ MELSOFT Mirrorの体験版はこちらから

 本記事で紹介したMELSOFT Mirrorの体験版を以下のWebサイトからダウンロードできます。

photo [クリックでWebサイトへ]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:三菱電機株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年3月25日