導入後も毎年アップグレード可能なレーザー加工機、常識破る三菱電機の新戦略持続的価値を作るモノづくり

三菱電機は、2次元レーザー加工機のフラグシップモデル「GX-F」シリーズについて、今後は毎年、新技術や機能をリリース。その新技術や機能を既に導入済みの製品にも後付けで提供できるようにし、アップグレードし続けられるようにする新戦略「GX-F Evernext Strategy」を打ち出した。業界の常識を打ち破る新たな取り組みについて、MONOist編集長の三島一孝が話を聞いた。

» 2023年01月10日 10時00分 公開
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 製造業にとって「製品販売後の価値の維持」は宿命的な課題だといえる。製造業がモノを作って売るというビジネスモデルである以上、製品発売時に最新技術を取り入れた価値のあるものでも、時間がたち他に新たな技術が生まれてくれば、その価値が失われる構造だからだ。これは製品の開発期間を考えれば仕方のないものとして従来受け入れられてきたが、そうした構造に立ち向かい、新たな戦略を示したのが、三菱電機のレーザー加工機事業である。

 三菱電機では、2次元ファイバーレーザー加工機のフラグシップモデル「GX-F」シリーズにおいて、今後は毎年、本体の性能をアップグレードする新技術を盛り込んだ新機能を提供し、最新技術に常に追従できるようにする戦略「GX-F Evernext Strategy」を打ち出した。ユーザーは導入済みの本体に新たなソフトウェアやハードウェアを付加することで、本体を買い替えずに最新の技術や機能を利用できるようになる。

 業界の常識を打ち破るこの新たな戦略について、三菱電機株式会社 産業メカトロニクス製作所 レーザ製造部 次長 横井茂氏と、同FAシステム事業本部 メカトロ事業推進部 メカトロ戦略グループ レーザ加工機ビジネス統括 小林佳史氏、MONOist編集長の三島一孝が鼎談を行った。

レーザー加工機をアップグレード可能にするGX-F Evernext Strategy

三島 まずは新たな戦略であるGX-F Evernext Strategyについて教えてください。

横井氏 三菱電機では1979年にレーザー加工機を製品化して以来、40年以上にわたりさまざまな製品開発を続けてきました。今回新たに打ち出したGX-F Evernext Strategyは、お客さまにとっての価値を持続可能にするものです。

三菱電機株式会社 産業メカトロニクス製作所 レーザ製造部 次長 横井茂氏 三菱電機株式会社 産業メカトロニクス製作所 レーザ製造部 次長 横井茂氏

 具体的には2つの柱があります。1つ目はGX-Fシリーズの性能のアップグレードです。顧客ニーズと先進的な技術トレンドを組み合わせる中で開発を行った新技術や機能を毎年提供していきます。これらの新技術や機能を追加購入することで、既に導入していただいているレーザー加工機をバージョンアップできるようになり、新たな技術トレンドが生まれたときにもそれらに対応した新技術や機能を容易に導入できるようになります。

 2つ目は、レーザー加工機周辺の自動化システムとの互換性確保です。従来はレーザー加工機に自動化システムを組み合わせて使っていた場合、加工機本体を入れ替えると自動化システムも同時に入れ替える必要がありました。新戦略では、自動化システムとの互換性を確保した形での製品の開発や拡張を行うために、自動化システムはレーザー加工機を入れ替えたとしてもそのまま使えます。また、システムの拡張や後付けも容易に行えるようになります。

小林氏 レーザー加工機のGX-Fシリーズ自体は2019年に発売しており、購入いただいたお客さまも数多くいます。この新しい取り組みにより、すでにGX-Fを導入済みでも、新技術や機能を必要な時に後付けで購入いただけます。2023年モデルとして発売する「GX-F120」には、AI(人工知能)を活用した制御技術「AIアシスト2.0」と厚板向けの切断技術「Mz-Power」という2つの新技術を搭載していますが、既に導入済みのGX-Fでもこれらを後付けできます。

GX-F Evernext Strategyのコンセプト GX-F Evernext Strategyのコンセプト[クリックで拡大] 提供:三菱電機

レーザー加工機の価値を本質的に高めるという思い

三島 そもそも、レーザー加工機をアップグレード可能な形にしようとしたきっかけは、どういったものだったのでしょうか。

横井氏 もともと、レーザー加工機の価値を本当の意味で高めるものは何かを考えたときに、それぞれのコンポーネントや技術に磨きをかけることが重要だと考えていました。製品を丸ごと提供することにこだわり過ぎると販売戦略によってデザインなどの目先の部分を変えてモデルチェンジすることが求められる場面も出てきます。しかし、お客さまにとってレーザー加工機の価値は、加工に関する最先端の技術を最適な形で使いこなし、加工の精度や生産性、品質などを上げていくことです。

 そのためには、製品の形にこだわるのではなく、要素となる技術を1つ1つ磨き上げることが重要です。そして、磨き上げた技術を提供するのに、製品モデルチェンジのタイミングに技術開発を合わせるのではなく、技術が形になったタイミングで機能として提供する仕組みが最適だと考えました。こうした発想がGX-F Evernext Strategyの土台となりました。

 GX-F Evernext Strategyではお客さまに新しい価値を持続的に提供するために、毎年新しい技術や機能をリリースしていきます。これまでの加工機では、リプレースするまでは生産性は大きくは変わりませんでした。

三菱電機 FAシステム事業本部 メカトロ事業推進部 メカトロ戦略グループ レーザ加工機ビジネス統括 小林佳史氏 三菱電機 FAシステム事業本部 メカトロ事業推進部 メカトロ戦略グループ レーザ加工機ビジネス統括 小林佳史氏

 しかし、GX-F Evernext Strategyでは、新技術や機能のアップグレードやシステムの拡張、後付けなどによって、加工機導入後でも新しい技術を加えられます。加工能力を大きく変えるような先進技術トレンドが生まれたとしても追従できるわけです。市場での競争力の低下をできる限り抑え、段階的な生産性向上を実現することにより、顧客企業としても市場での競争力を維持し、さらに向上し続けられるようになります。

小林氏 私自身の営業時代の経験でも、設備更新の際にお客さまから「自動化システムはまだ動くのに、なぜこれを流用できないのか」という声を頂くことがありました。これまではプラットフォームが共通化されていなかったために、流用して後付けすることはできませんでした。しかし、今後はGX-Fを持続的に活用するプラットフォームとして据えることで、加工機本体のアップグレードも含め新たな試みが実現できるようになりました。まだ使える加工機や自動化システムをやむなく廃棄するケースを減らし、既に保有する設備一体を最大限に有効活用することで、サステナビリティへの貢献にもつながると考えています。

主要なキーコンポーネントを自社開発するプラットフォームの強み

三島 製品をアップデータブルな形にすることは、発想としては多くの製造業が持っていると思いますが、実際に形にしようとすると技術面、開発面、販売面などさまざまな領域で難しい点が出てくると思います。これらの点はどのようにクリアしていったのでしょうか。

横井氏 技術面では、まず2019年発売のフラグシップモデルであるGX-Fが、いくつかのモジュールを入れ替えたり、組み合わせたりしても機能するプラットフォームの考え方をベースとして設計されていたところが前提となります。プラットフォームに合わせて、キーパーツや部品の共通化、最適化なども既に進められていました。そのベースができていたために、このプラットフォームに適合する形で今後の機能開発が可能だという考えになりました。当然、GX-Fの開発当初はそこまで想定はしていなかったので、検証などを進めた上で「いける」ということで、今回のGX-F Evernext Strategyの発表につながりました。

小林氏 そもそもの背景として、三菱電機のレーザー加工機事業の強みがあったと考えています。加工機、発振器、制御、光学、加工、サービスというレーザー加工機に関連する全てのキーテクノロジーを自社内で開発しています。これはレーザー加工機メーカーでは非常に少なく、これだけ広範囲にわたるコンポーネントを抱えているからこそ、強いプラットフォームを内部で構築できたと考えています。

GX-F Evernext Strategyを実現に導いた三菱電機の強み GX-F Evernext Strategyを実現に導いた三菱電機の強み[クリックで拡大] 提供:三菱電機

三島 キーコンポーネントが内製化できている点を強みに、製品をプラットフォームベースで開発する仕組みが既に構築されていたからこそ進められたというわけですね。ただ、開発面でも従来の製品ベースではなく、機能ベースでの開発が必要となるなど、大きく変化が求められるのではないでしょうか。

横井氏 そうですね。われわれは、GX-F Evernext Strategyを発表するに当たり、毎年新技術や機能をリリースすることをコミットメントしています。ただ、毎年新機能を開発していくための準備が必要となります。そのため、2030年までのロードマップを描き、どういう技術や機能をリリースしていくのかを落とし込んで開発を進めています。開発期間が短くてすむものもあれば、長くかかるものもありますので、それらを組み合わせながら毎年魅力のある技術や機能をリリースしていくよう試行錯誤しているところです。

 同時にこうした技術や機能のリリース方法を考えた場合、開発の方法や体制も変える必要があります。開発の方法でいくと、総合電機メーカーならではの特長を生かした、研究所や他部門との連携があります。競争力のある最新技術を活用することを考えるとレーザー加工機の部門だけでは難しい技術なども多くなります。研究所の基礎研究なども組み合わせ、2030年までの計画に応じて関連部門とすり合わせを行いながら緊密な連携を取るようにしました。

 さらに、開発体制も変更しています。今までは加工機そのものを開発するメンバーが設計開発部門の中心でしたが、それぞれの技術に特化しそれらを掘り下げる部門へ人員を振り向けこちらを中心とする形に変えました。「要素技術」と呼んでいますが、人数の比率も以前とは逆転しており今ではこちらの部門の人員が多くなっています。

定量情報と定性情報を併せてユーザーのニーズを把握

三島 販売や営業の形も変わってくる面もあると思いますが、どのように進めていくのでしょうか。

小林氏 三菱電機のレーザー加工機は、商社様を経由して販売するケースがほとんどで、こうしたパートナー企業からは、機種の切り替えが売れるタイミングであったために、さまざまな意見があったことは事実です。しかし、お客さまにとって保有する設備が陳腐化することなく市場競争力を維持し、さらに向上させる可能性を持っていることは、将来への安心感や期待感も含めて喜んでいただけると考えています。また「今買うとよいのか、次のモデルまで待った方がいいのか」と迷う必要はなく、お客さまの事業収益や計画に沿ったタイミングでの設備投資や導入が可能となります。われわれとしても、後で先進機能を追加できるため、タイミングを意識せずに提案できる利点があります。

 また、営業としては、お客さまとの接点強化という意味もあると考えています。加工機は一度購入すると数十年使うケースもあり、毎年更新提案をするわけにはいきません。しかし、GX-F Evernext Strategyでは毎年新技術や機能が出るため、お客さまと接して課題感などを聞く機会が増えます。新しい技術や機能に関しては、あくまで「必要なものを必要なときに追加できる」というものですので、お客さまの事業成長に合わせて導入を進めるようなことも可能で、より顧客企業の現状に合った提案につながると考えています。

MONOist 編集長の三島一孝 MONOist 編集長の三島一孝

三島 顧客に受け入れられる技術や機能を提供していくことを考えるとより深いニーズ把握が求められますね。

横井氏 ニーズの把握については強化していく方針です。定量的なものについては、リモートサービスによるデータの活用があります。既にGX-Fユーザーの大部分がリモートサービスである「iQ Care Remote4U」に加入いただいており、それを通じて蓄積した数字的な情報をベースに必要な機能について検討しています。お客さまの許可を得たデータだけ活用する形ですが、稼働率や稼働パターン、機能の使われ方などから、新たな追加機能のヒントを探っています。先ほどプラットフォーム化が新戦略の1つのベースになったと話しましたが、この利用データの活用も、機能ごとに提供する新たな仕組みを作るうえで必要な要素だと考えています。

 一方、定性的な取り組みは、われわれ自身が直接お客さまの元に足を運び、ヒアリングを行うというものです。要素技術の開発メンバーが直接お客さまに伺い、話を聞きながらその言葉の裏に潜んでいる潜在的なニーズを探ります。定量的なものと定性的なものを組み合わせることで、真に使われる新たな技術や機能を生み出していきたいと考えています。

米国や欧州にも将来的には展開を計画

三島 顧客のニーズに寄り添うために、さまざまな点で多くのチャレンジを進めているということですね。それでは、最後に、今後の目標を教えてください。

横井氏 われわれは技術を提供することで、お客さまや社会を豊かにするという考えで事業を進めています。それをこのGX-F Evernext Strategyで製品価値につなげていけるようにしていきます。開発メンバーにとっては挑戦的な面もありますが、自ら生み出した技術や機能をお客さまに喜んでいただけることが一番のモチベーションですので、設計開発メンバーのやりがいにもつながると考えています。

小林氏 GX-F Evernext Strategyはお客さまにとって「将来を考えても、市場競争力や生産性が向上でき、長期間利益が出る」と感じていただきたいと考えています。まずは日本から始めますが、今後は米国や欧州などグローバルにも展開していきたいと考えています。

三島 本日はありがとうございました。

GX-Fと、右から小林氏、横井氏、三島 GX-Fと、右から小林氏、横井氏、三島

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提供:三菱電機株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2023年2月9日