世界の変化が予測不能になる中、モノづくりも従来以上に変化に柔軟に対応できることが求められている。そのためのカギが現場データを活用したデジタルマニュファクチャリングだ。「Automating the World」をビジョンに掲げる三菱電機が進める次世代のデジタルマニュファクチャリングとはどのようなものなのだろうか。「IIFES 2024」の出展内容を含めて描く姿を紹介する。
地政学的な問題などによるサプライチェーンの混乱やグローバル競争の激化、人手不足を含む労働環境の問題など、製造業を取り巻く環境は複雑性を増し、VUCA(不安定性、不確実性、複雑性、不明瞭性)とされる予測不能な領域に入りつつある。こうした環境に対応するには、モノづくりも変化に柔軟に追従できる必要がある。
その手法の一つとして注目されているのが、デジタルマニュファクチャリング(デジタル製造)だ。モノづくりにデジタル技術を応用することで、全てを現実世界で調整するのではなくシミュレーションなどを活用して変化への対応を速めることができる。こうした中で新たなビジョン「Automating the World」を掲げ、次世代のデジタルマニュファクチャリングに取り組んでいるのが三菱電機だ。
三菱電機は「循環型デジタルエンジニアリング」を成長の軸として位置付け、豊富なコンポーネントから得られたデータをデジタル空間に集約して分析することで顧客の潜在ニーズや課題を把握し、顧客に還元する価値創出サイクルを作ることを目指している。同社のFAシステム事業本部はグローバルスローガンとして「Automating the World」を掲げ、「カーボンニュートラル」「サーキュラーエコノミー」「安心・安全」「インクルージョン」「ウェルビーイング」という5つの重要課題をオートメーション技術(自動化)によって解決しようとしている。
三菱電機 FAシステム事業本部 FAデジタルエンジニアリング推進部 部長の水嶋一哉氏は「環境の変化に対応するためには企業変革力の強化が急務です。重要課題として挙げた5つのテーマのような問題は、ハードウェアだけでは解決できないことも多くあります。ハードウェアとソフトウェアを組み合わせ、ソリューションとしての仕組みをつくることが必要だと考えています」と説明する。
三菱電機は、デジタルマニュファクチャリングの先駆けとして2003年からFA-IT統合ソリューション「e-F@ctory」を展開している。さらに、エンジニアリングチェーンに踏み込んだソフトウェアの強化に力を入れている。
三菱電機はここ数年、デジタルマニュファクチャリングを加速させるソフトウェアのポートフォリオを強化している。エンジニアリングツールのシミュレータと組み合わせて製造ライン構築時の効率化や調整負荷の削減を実現する3Dシミュレータ「MELSOFT Gemini」やAI(人工知能)を用いて高度な分析や診断を簡単に実行するデータサイエンスツール「MELSOFT MaiLab」、FAとITのデータを一元管理して工場IoT(モノのインターネット)プラットフォームの役割を果たすSCADAソフトウェア「GENESIS64」などのソフトウェア製品群を展開。ハードウェアから得られるデータとこれらのソフトウェアを組み合わせて、エンジニアリングチェーンやサプライチェーンにおける一貫したデータの活用と連携を進める考えだ。
水嶋氏は「モノづくりデータを起点としたデジタルツインと称される世界を実際に形にすることを目指しています。制御機器などのハードウェアから得られるデータとソフトウェアによってさまざまな形で使えるようにします。現実世界で起こっていることをデジタルの世界で完璧に再現できるようにし、その中でシミュレーションできるようにします」と強調する。
デジタルマニュファクチャリングの現実解として、三菱電機はロボットがリチウムイオン電池の組み立てから分解までの一連の作業を実現する製造ラインのデモ展示をIIFES 2024で行う。デモ機は2023年11月に開催された「2023国際ロボット展」(iREX2023)で展示したものと同じだが、今回はMELSOFT Gemini、GENESIS64、MELSOFT MaiLabなどのソフトウェアの強みとこれらを組み合わせたソリューションとしての価値を中心に訴求する。
デモ展示では、製造ラインの各種制御情報をオープン統合ネットワーク「CC-Link IE TSN」で集め、さまざまなメーカーの機器が混在する現場でも簡単にデータ収集できる「Edgecross」によって一元的なデータに変換し、GENESIS64で見える化する。得られたデータをMELSOFT MaiLabで分析したり、クラウドサービスを通じて遠隔監視したりできることなども紹介する。水嶋氏は「これらは既に製品として販売しており、すぐに使えるものです」と実装フェーズであることを訴える。
三菱電機は、2つの新ソフトウェア製品を今回のデモラインに導入している。一つが、2023年12月に発売した外観検査ソフトウェア「MELSOFT VIXIO」だ。MELSOFT VIXIOはカメラや周辺機器との連携、AIモデル作成、検査やモニタリング機能、トレーサビリティー関連機能といった外観検査に必要な機能を集約したソフトウェアで、製造ラインに外観検査を簡単に組み込める。
AIを使った画像検査では学習用の画像の収集が課題になるが、MELSOFT VIXIOは数枚程度の画像から学習用の素材をAIが自動生成するので、その環境に最適なAIモデルを簡単に構築できる。良品学習と異常箇所学習に対応しており、異常のサンプルがない場合は良品から大きく外れたものを不良と認識する仕組みで運用し、異常のサンプルがそろったら不良を認識するという仕組みにシフトするといった使い分けも可能だ。
色むらや汚れ、異物混入など、自動化が難しい検査工程などにも導入できる。現場でのカメラ操作やシーケンサ連携、検査結果のモニター画面作成もプログラムレスで実現する。GigE対応であればメーカーを問わずどのカメラでも利用可能だ。「外観検査はいまだに目視で行われている場合が多く、省力化が求められています。人手を完全にゼロにするのは難しいと思いますが、MELSOFT VIXIOを使えば大幅な省力化が可能です」(水嶋氏)
もう一つが、大規模シミュレーションが可能なロジックシミュレータだ。サーバ/PCにインストールすることで仮想環境を構築でき、シーケンサなどの実機を使わずに制御プログラムのシミュレーションができる。最大で50の制御ユニットを仮想的に設置でき、場所を問わず複数人が同時アクセスして仮想環境で制御プログラムを開発できる。調整用の無駄な制御プログラムを組む必要がなくなるため、現場調整も含めたデバッグ期間を大幅に短縮可能だ。単独でも動作するが、MELSOFT Geminiのような3Dシミュレータと併用することでラインの動きなどをよりリアルに把握でき、シミュレーション精度を向上させられるという。
「ロジックシミュレータの投入によって設計から製造、運用、保守までライフサイクル全体をデジタルで支援するソフトウェアが出そろったことになります。全てデジタルで試してから実機に実装できるようになるので、製造ラインの構築の仕方そのものを大きく変える可能性があります」と水嶋氏は訴える。
同社は他にも、2024年内の市場投入を予定している曲線型のリニアトラックシステムやカーボンニュートラルに関するコーナーもIIFES 2024に出展する。省エネ支援アプリケーションの「EcoAdviser」などのデータ収集製品や温室効果ガス(GHG)関連データをクラウドで監視するソフトウェアなど、GHGプロトコルのScope3におけるCO2排出量把握に踏み込んだ内容も展示する。今後製品に応用される最先端技術として、三菱電機グループの研究開発拠点「先端技術総合研究所」や「情報技術総合研究所」で検証中のAIを活用した技術も紹介する予定だ。
これらの出展を通じ、三菱電機はハードウェアとソフトウェアの連携によるフレキシブルなモノづくりを訴求し、さまざまな社会課題の解決を進める考えだ。水嶋氏は「ハードウェアとソフトウェアの連携を強化し、現場に寄り添ったソリューションの形でデジタルツインの世界を作ることを目指しています」と今後の方向性を語る。
製造業を取り巻く環境が激しく変化する中で、柔軟かつ効率的なモノづくりができる体制の構築は必須だ。そこで求められるのが現場データの活用であり、デジタル技術を活用したハードウェアとソフトウェアの連携だ。モノづくり工程のデジタルツイン構築に悩んでいるのであれば、多彩なコンポーネントやソリューションソフトウェア、サービスを紹介するIIFES 2024の三菱電機のブースに足を運んでみてはいかがだろうか。
三菱電機はIIFES 2024に出展し、本稿でも紹介した各種ソフトウェアによるデジタルマニュファクチャリングの実践事例を紹介します。東京ビッグサイトで2024年1月31日(水)〜2月2日(金)に開催されているのでぜひご来場ください。
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提供:三菱電機株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年2月25日